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新築されたポルシェ・ミュージアムを訪れた


  さる1月31日に正式オープンしたポルシェ・ミュージアムを、オープン数日前に取材させてもらうことができた。


  その名も「ポルシェ・プラッツ」と呼ばれるドイツ・シュツットガルト市ツッフェンハウゼンのポルシェ社工場のすぐそばの駐車場跡に、ミュージアムはまったく新たに建設された。巨大な箱が斜めに宙に浮いているような奇抜な外観は、遠くからでも眼に飛び込んでくる。デルガン・ミースルというオーストリア・ウイーンの設計事務所がコンペティションを勝ち抜き、170社の中から選ばれ、設計した。

  このミュージアムが完成するまで、ポルシェは長年にわたって近くに小規模のミュージアムを公開していた。ただし、20台程度を狭いスペースに並べたもので、とても新しいものを連想できる代物ではなかった。

  新しいミュージアムに展示されているのは約80台。入れ替えて展示できるものが約350台もある。そのすべてが、そのまますぐに走り出せるコンディションに保たれている。展示車をつねに入れ替え、また、世界各国のヒストリックカーイベントや企画展などに収蔵車が参加するという「ローリングミュージアム」というコンセプトが、実に今日的だ。

  ミュージアムにはクルマが並んでいるだけでなく、1931年の設計事務所開設以来の設計図や写真、書籍、カタログ、ポスターなどが整理されたアーカイブと図書館、ワークステーション、レストアルームなどが併設されている。また、見学者が楽しめるカフェや本格的なレストラン、ミュージアムショップなども充実している。



  クルマは変則的な2フロアを用いて展示されている。画一的で、単純にならないよう最新の工夫が施され、見やすく、テンションが高いまま保たれる。中でも、1970年代後半の世界スポーツプロトタイプレース選手権を席巻したポルシェ917のバリエーションが6台並べられているさまは圧巻だ。

  個人的に興味を抱かされたのは、プロトタイプや実験作などだった。現代の標準からすれば、明らかに失敗と思えるスタイリングや商品企画を備えたものでも、歴史の彼方に葬り去るのではなく、正直に公開している点に好感が持てる。と同時に、現行の生産車に絶対的な自信を持っていることの現れとも受け取れる。

  入場料金は、大人8ユーロ、子供4ユーロ。詳細な説明文を読みながら、じっくりと鑑賞してみたい。もう一度訪れてみたくなるほど、魅力的なミュージアムだった。ドイツに旅行する人には、遠回りしてでも訪れることを勧める。


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モータリングライター 1961年東京生まれ。自動車と自動車にかかわる人間についての雑誌記事や単行本を執筆している。主な著書に、『10年10万キロストーリー』(1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。ここ数年、外国を長距離クルマで走ることが続いている。2003年には、東京からロシア・ウラジオストクを経由してポルトガル・ロカ岬まで自らのトヨタ・カルディナでユーラシア大陸を横断。2006年には、ダイムラー・クライスラーのイベント『パリ~北京』に参加し、ロシア・エカテリンブルクから北京までメルセデスベンツE320CDIで走破。2007年に引き続き、今年も、『トランスシベリア2008』に出場し、総合10位、クラス9位で完走した。
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