高校生の頃、初代シロッコにはとても憧れていたので、復活したシロッコに乗れるのは感慨深い。当時、売り出し中のジョルジェット・ジウジアーロによる、“折り紙細工”と評されたシャープな線と面のエクステリアデザインのカッコ良さったらなかった。
また、「前輪駆動+テールゲート付きボディ」というメカニズム構成の新しさにも、大いに興味をそそられた。当時、フォルクスワーゲンといえば、まだ、天然記念物的に古かったビートルのイメージが大きかったからだ。矢継ぎ早に発表されたシロッコとゴルフとパサートの新シリーズによって、フォルクスワーゲンのイメージは一新された。あの頃の同社の躍動感は、いまでも忘れられない。
その後、シロッコは2代目にモデルチェンジし、さらにコラードというモデルに発展し、やがて、そのコラードも消滅してしまった。そして、今年、初代から数えて35年ぶりにシロッコが復活した。「前輪駆動+テールゲート付きボディ」という構成とスポーツスペシャリティクーペという役割は変わらない。幸いだったのは、この種の“復活モノ”にありがちなレトロ風味の“コスプレ”デザインを採用しなかったことだ。
走りっぷりは、実に見事なものだった。参加したメディア試乗会の会場となったのは、長野県の八ヶ岳周辺のワインディングロード。急なアップダウンとコーナーが連続する、走り甲斐のある一帯だ。
シロッコは、ヘタなスポーツカーなら軽く置いていかれるほど速く、コーナリングに優れている。シャープに向きを変え、コーナーに進入しても、前輪駆動にしては例外的にリアタイヤがよく粘る。2リッターエンジン版に付く「DCC」サスペンションは、このコーナリングの一連の動きで発生するノーズダイブ&テールスクオットとロールが相互に制御され、まるで平行移動しているかのようにコーナリングのキレがいい。
荒れた路面での路面追従性も良く、ハイペースでコーナリングしても暴れることなく、なおかつ乗り心地が乱されない。“人工的”と評されることがあるかもしれないが、レベルが高い“人工的な”制御は、デキの悪い“自然な”制御なしを超越する。
1.4リッター版には「DCC」は付かないが、それでもシャシーとサスペンションの素質の幹が太いので、ナチュラルで好ましい。TFSI+7速DSGも、あい変わらずいい仕事っぷりだ。左足ブレーキでエンジンが失速する設定だけは、そろそろ改めて欲しい。つねに大人を4人乗せる必要のない人には、大いに勧めたい。適度にタイトな車内空間が気持ちを引き締めてくれる。