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日産キューブ【現代ニッポンのカルチャーとデザインが体現されている】


  今度の日産キューブは、とても魅力的だ。


  先代の魅力を十分に活かしながら、新しい試みをいくつか投入していて、それが効いている。モデルチェンジの見本のようにうまく生まれ変わった。

  日本の自動車メーカーはモデルチェンジがあまり得意ではなくて、変え過ぎてしまってお得意客に逃げられるか、変えなさ過ぎてガッカリされるかのどちらかが多かった。うまい具合にレベルアップして真ん中に収める例が少ないのだ。今度のキューブは、例外中の例外。

  キューブの魅力とは、斬新で現代的なデザインにある。いわゆる“ミニバン”と呼ばれるカテゴリーに属するが、ミニバンのように没個性でもなければ所帯じみてもいない。キューブはキューブで、世界中のどのクルマにも似ていない。これって、工業製品にとってとても大事なことなのだけれども、自動車のデザインは馬車時代から連綿と続く美意識に支配されているから、どうしても日本車のデザインはヨーロッパ車を意識せざるを得なくなってしまう。真似っぽく見えちゃう。半ば仕方のないことなのだけれども、日本車からはオリジナリティの高い自動車デザインというものは構造的に生まれにくいのだ。

  でも、キューブは120年以上続いている自動車デザインの枠からハミ出し、今の日本人にしか作れないカタチをしている。





  最もキューブらしい特徴は、テールゲートのウインドガラスが非対称に切り取られているところだろう。クルマのデザインで非対称なんてあり得ない造形だったから、海外のデザイナーがキューブを見ると、みんな驚き、同時に高く評価していた。

  新型は、初めてヨーロッパに輸出されることになったので、日本仕様とは反対側に非対称にリアウインドガラスが切られる。

  インテリアも、クールだ。ヤンキーテイストかファンシー風味のどちらかに陥りがちだった日本車のインテリア・デザインとは較べものにならないレベルの高さだ。造形、配色、素材それぞれが高いレベルでバランスして、センスがいいカフェで寛いでいるような心地良さがある。フジヤマ&ゲイシャではない、現代のニッポンの良質なデザインとカルチャーを体現している。

  Aピラーの形状と運転姿勢の関係についてもよく吟味されており、運転しやすく、景色が違って見えてくる。旧型では、若者中心に訴求されていたが、新型は世代や性別などを越えて、あらゆる人におススメできる。


日産キューブ PHOTO GALLERY
モータリングライター 1961年東京生まれ。自動車と自動車にかかわる人間についての雑誌記事や単行本を執筆している。主な著書に、『10年10万キロストーリー』(1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。ここ数年、外国を長距離クルマで走ることが続いている。2003年には、東京からロシア・ウラジオストクを経由してポルトガル・ロカ岬まで自らのトヨタ・カルディナでユーラシア大陸を横断。2006年には、ダイムラー・クライスラーのイベント『パリ~北京』に参加し、ロシア・エカテリンブルクから北京までメルセデスベンツE320CDIで走破。2007年に引き続き、今年も、『トランスシベリア2008』に出場し、総合10位、クラス9位で完走した。
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