BMW335iカブリオレは、久々にBMWらしい魅力を備えたオープンカーだ。カブリオレに限らず、基本的に同じエンジンと足回りを備えている335iのセダンやクーペ、あるいはワゴンでも輝きは変わらない。
BMWの魅力とは、何だろう?
それは、コンパクトなボディに精密精緻なメカニズムを持つエンジンを搭載し、運動力学的にとことんまで理想を突き詰めた足回りと車台によって、ミリ単位で軌跡をコントロールしているかのようなスポーティな走りっぷりだ。
古くは、BMWを1960年代の経営危機から救った「1500」、その発展形である「2002tii」、日本でもマニア心をくすぐった初代「323i」。たとえれば、「山椒は小粒でピリリと辛い」。
BMWは、3シリーズの他にも、より大型の5や6、7シリーズ、逆に小型の1シリーズなどバリエーションを拡げてきたが、いつの時代でも真髄は3シリーズにあった。3がジャストで、3がBMWのすべてを表現していると、僕は思う。
335iの直列6気筒エンジンは、最新の技術を採用している。ヨーロッパでトレンドとなっている「ガソリン直噴」と「ツインターボ」だ。このふたつが、パワーだけでなく、レスポンスにも燃費にも貢献している。どの回転数からでも、一流老舗旅館のベテラン仲居さんのように、打てば響くようにどの回転域からでも鋭く加速させる。306馬力という数字以上にパワフルで、絹ごし豆腐のように滑らかだ。
電動開閉式ハードトップを備えたカブリオレで屋根を開けて走れば、エンジン音のピアニッシモからフォルテッシモまで、直接に耳で楽しむことができる。ここまで官能的なエンジンも、最近では珍しい。「バイエルン・エンジン製造会社」という社名を掲げるだけのことはある。
クルマ全体としての完成度もとても高いが、このクルマを買うということは、エンジンに代金の大半を支払っているようなものだ。
世界中の自動車が“白モノ家電化”する中にあって、335i各モデルは、例外的にメカニズム、特にエンジンの際立ったキャラクターと実力を売り物にしていて、それが成功している。どのボディを選ぶかで迷うところだが、カブリオレは、他車の電動ハードトップと較べて、例外的にトランクスペースが広く確保されており、実用性も損なわれていない。