一通りインタビューを終えると、近藤さんが人参を揚げ始めた。
「私、実は人参苦手なんですよ。」と西山さん。
「そういうお客様、結構いらっしゃるんですよ。そんなお客様に美味しく召し上がって頂けるように料理するのが我々料理人の仕事ですから。うちの天ぷらを食べると、美味しいっておっしゃるんですよ。」と微笑む近藤さん。
しばらくすると、美しく揚げられた“人参”の天ぷらが供された。
「キレイも美味しさなんです。」と近藤さん。
人参嫌いな人が人参を嫌いだと思う要素、独特の香りや歯ごたえ等をどれだけ少なくできるか、人参の良い部分だけをどうしたら出せるか?どうしたらお客様に喜んで頂けるか?を研究し、そして、味だけではなく美しさ、フランス料理の飴細工をイメージし、「てんぷら近藤」の“人参”天ぷらは今のカタチで供されるという。
「人参を食べるなんて何年ぶりだろう?」と言いながら箸をつける西山さん。
「美味しい。本当に美味しい。私、今、何だか感動しています。でも、人参が好きになったんではなく、この人参の天ぷらが美味しいんですよね。人参の味ってこんなに美味しいんですね。」と、どんどん箸が進む。
そんな西山さんを見ながら、
「食べなきゃわからない。人参は実際、甘いんですよ。その甘さを如何に引き出すかが我々の仕事ですから。だから40年以上この仕事をやっていても飽きないんです。冷めても美味しいんですよ」と人懐っこく笑う近藤さん。
実際に食べてみると、人参の甘み、風味、良い部分だけが口の中に広がる。人参嫌いでなくても、人参ってこんなに美味しいんだと感動を覚える逸品。
その他に供された料理は、「櫨(はぜ)」、「海老」、「栗」、「さつま芋」、「アスパラ」、「ピーマン」。
どれも近藤さんが実際に生産地に訪れ、素材はもちろん、野菜なら畑の土や育っている状況まで吟味し取り寄せた素材の数々。
「料理というのはただ美味しいだけじゃ駄目なんです。素材の美味しさを如何に引き出すか?そして料理の美しさも追求した上で、お客様に感動して頂ける料理でなきゃ。料理人としてお客様の喜んだ顔を見ると嬉しいですから。」と語る近藤さん。
お店を後にしてから、西山さんが「近藤さんはやっぱり職人ですよね。あのこだわりがあるから、こんな美味しいものが食べる事ができますし。近藤さんとは年も、経験してきた数も違いますから、私はまだまだですけど、こだわりやお客様に対する意識を作り上げていかないといけないんだと思いました。」と語った。
美味しいもの、様々なものを貪欲に知ろうとして、女優として作家として表現に挑む西山さんと、天ぷらを通じて素材の美味しさ、そしてお客様への感動を追及する近藤さん。
良い物を作り上げたい、お客様に感動して頂きたいという気持ちは、料理人も、女優も、作家も芯は同じなのかもしれない。そう感じざるを得ない「てんぷら近藤」での取材となった。