Vol.01 すし豊倉×ソムリエール 島幸子
舌先でほぐれる、江戸前寿司の繊細。
今回のご案内役は、女性ソムリエールの草分け、島幸子(しま ゆきこ)さん。数少ない女性のシニア・ソムリエールとして、中部地区を中心に活躍している。そんな彼女と同行したのは、愛知県・名古屋市の錦にたたずむ、伝統的な江戸前寿司をふるまう「すし豊倉」。今回は「舌鼓」連載スタートを記念して特別に、島さんに“寿司にあうシャンパーニュ”をご持参いただいた。銘柄は、ペリエ・ジュエ社のベル・エポック。実は、「すし豊倉」でもワインやシャンパーニュを仕入れている。一見意外な組み合わせだが、これがよく合う。
「もう、このウニの握りが最高ですね!」と島さん。最上級のウニをたっぷり、軍艦巻きにせずにそのままシャリにのせたもの。シャンパーニュとの相性も絶妙だ。「ほら、このとろけるような甘みが引いたあとに、ほのかに苦味が残るでしょう?このベル・エポックもそう。だからあわせて飲むと、絶妙なんです」 ウニが舌先で奏でた旋律を、再びなぞるようにしてシャンパーニュが口腔を駆け抜けていく。まさに舌鼓をうつ瞬間。
続いて「寿司ネタになるために生まれてきたような」と職人の加藤さんが冗談まじりにたとえた墨烏賊(スミイカ)の握り。限定された時期に、ごく少量しか獲れない稀少なネタである。乳白色のイカに醤油を筆ですっとひと塗り。甘みが深く、濃厚な味わい。そして、 極めつけは穴子の握り。島さんが「まるでお餅みたいな」と形容するほど、ふんわりとやわらかく、口に入れたらすぐに舌先でほぐれてしまうような繊細さだ。「甘みを抜いたデザートのよう」と表現する島さん。
ソムリエールとは、味はもちろん、香り、舌ざわり、歯ざわり、のどごし、余韻……。ワインのすべてを味わいつくす仕事だ。それを生業とする島さんの舌先を満足させる、見事に調和のとれた「すし豊倉」の寿司。また、島さんはこう言う。「最高の食材を使ってつくられた絶品料理やワインは、それにふさわしい空間の中で、すばらしい器に盛られていなきゃ嫌なの。もちろん、味わうほうもとびきりのお洒落をして行かなくてはね!」
「すし豊倉」の寿司も、その極上の味にふさわしい空間で楽しめるのは、言わずもがなだろう。