TOP > Car > Car コンシェルジュ 金子浩久 > 伝統を革新するスポーティサルーン【ジャガーXF】

ジャガーXF


  ジャガーXFは、ジャガー社の命運を握っている。


  「XFの売れ行きによって、今後のジャガー社の行方が決まります」


ジャガーXF   ジャガーXF

  イギリスのジャガー社のスタッフが語ってくれたように、昨年の生産台数は約8万台と5年前の半分にも満たない。大幅に台数を減らしたのは、トップモデルのXJが最大なる輸出先の北アメリカ市場で予定販売台数に遠く及んでいないからだ。

  歴代のXJは、北アメリカ、特にアメリカ合衆国での支持が高かった。ジャガー社も、それに応え、多くのXJを送り込み、受け入れられてきた。

  現行のXJは、フォード・グループ入りしたことで、その資本と技術力を最大限に活用し、画期的なアルミ製シャシーを実現することができた。アルミは軽く、剛性を高くできるから、大型ラグジャリーサルーンであるXJに採用されると、効果は絶大だ。

  もともと、XJは優しく柔らかな乗り心地とスポーティでデリケートなハンドリングが非常に高い次元でバランスしていたが、アルミ製シャシーを採用することによって、一層と磨きが掛かった。山道では、羽根に包まれるような乗り味を楽しみながら、スポーツカーを追い掛け回すような芸当が可能になった。誰が乗っても、XJの素晴らしさに賛辞を惜しまなかった。

  しかし、自動車ビジネスとは難しいもので、そのXJがなぜかアメリカでふるわない。ジャガー社では、その理由を「クラシック過ぎるスタイルにある」と、一応している。ジャガー各車が“クラシック”なのは、1号車から変わらないんだけど。それなのに、なぜ?

ジャガーXF   ジャガーXF

  XJのアメリカでの不振の理由は、誰にもわからない。そんな状況にあって登場したのが、XFだ。ラインナップの中で、XFはXJの下に位置する。今までのSタイプの後継だ。ご覧の通り、XFは今までの、どのジャガーとも関連性のないスタイルを採っている。一気に、モダナイズしてきた。外観も新しいが、インテリアはさらにモダンだ。

  XJのようなアルミ製シャシーではないが、走りっぷりは、ジャガーそのもの。優しく、柔らかく、鋭い。3種類あるエンジンの中では、V8の自然吸気版が最もナチュラルだった。ドイツのライバル勢とはひと味も二味も異なったテイストを持つXFは、大いに刺激的で魅力にあふれている。だが、アメリカでのXJの例もある通り、予断は許されない。XFは救世主になれるのだろうか。


ジャガーXF
モータリングライター 1961年東京生まれ。自動車と自動車にかかわる人間についての雑誌記事や単行本を執筆している。主な著書に、『10年10万キロストーリー』(1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。ここ数年、外国を長距離クルマで走ることが続いている。2003年には、東京からロシア・ウラジオストクを経由してポルトガル・ロカ岬まで自らのトヨタ・カルディナでユーラシア大陸を横断。2006年には、ダイムラー・クライスラーのイベント『パリ~北京』に参加し、ロシア・エカテリンブルクから北京までメルセデスベンツE320CDIで走破。2007年に引き続き、今年も、『トランスシベリア2008』に出場し、総合10位、クラス9位で完走した。
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