TOP > Car > Car コンシェルジュ 金子浩久 > 自動車界を代表してブランドビジネス成功例となったベントレー

ベントレー・コンチネンタルGTC


ベントレー・コンチネンタルGTC  ベントレーのコンチネンタルGTシリーズの中から何を選ぶか?


  そんな贅沢な悩みを持つことは自分には決してないはずだが、夢想ならできる。僕なら、2ドア4シーターオープンのコンチネンタルGTCを選ぶ。幌を閉めて312km/h、開けても304km/hの最高速度を誇る超高性能オープンカーだ。W型12気筒+ツンインターボ・エンジンの560馬力をハイテク4輪駆動システムで路面に伝える。


ハイテクを可能にしたのは、1998年にベントレー社を買収したドイツ・フォルクスワーゲン(VW)社の技術だ。それまで、ベントレーは安くても2500万円以上するような超高級車をごく限られた顧客だけに販売していた。老舗に通う常連だけで成り立っていたビジネスだから、技術も造形も意匠も浮世離れしていた。


ベントレーという名門ブランドを買収した国民車(=Volks Wagenフォルクスワーゲン)は、VW初の高級車「フェートン」開発で培われた技術を流用することでコストを低減し、“開かれたベントレー”を作ることを目論んだ。流行りのマーケティング用語でいうところの“ブランドM&Aによるシナジー効果”を利用するわけだ。


ベントレー・コンチネンタルGTC ベントレー・コンチネンタルGTC


  ドイツのマネージメントが優れていたのか、イギリスのクラフトマンシップが健在だったのか、ベントレーとしては破格に安い1990万円で「コンチネンタルGT」は2003年に発売された。


コンチネンタルGTは、素晴らしいでき映えで、常連オーナーをも魅了した。性能が優れているだけでなく、浮世離れしていた造形と意匠を現代流に再定義し直し、最高のGTとして時代の前衛に立たせた。積極的に新しい素材や色遣いを試みながら、ベントレー伝統のデザイン文法から逸脱していないから、常連の厳しいチェックも跳ね返せている。


伝統を踏まえつつ、革新する。


クルマに限らず、ブランドと呼ばれるものに等しく課せられる課題だが、ベントレーは見事に成功を収めている。大胆にも、「どんなに注文を受けても、年間生産台数を9999台に限定する」と公言しているところにも、自信のほどと巧みな戦略がうかがえる。ベントレーは、いま旬を迎えている。


ベントレー・コンチネンタルGTC
モータリングライター 1961年東京生まれ。自動車と自動車にかかわる人間についての雑誌記事や単行本を執筆している。主な著書に、『10年10万キロストーリー』(1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。ここ数年、外国を長距離クルマで走ることが続いている。2003年には、東京からロシア・ウラジオストクを経由してポルトガル・ロカ岬まで自らのトヨタ・カルディナでユーラシア大陸を横断。2006年には、ダイムラー・クライスラーのイベント『パリ~北京』に参加し、ロシア・エカテリンブルクから北京までメルセデスベンツE320CDIで走破。2007年に引き続き、今年も、『トランスシベリア2008』に出場し、総合10位、クラス9位で完走した。
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