TOP > Car > Car コンシェルジュ 金子浩久 > フランスから久々に登場した高級車「シトロエンC6」

シトロエンC6


  個性が薄れたと言われるフランス車だが、シトロエンC6はシトロエンらしい個性を備えていて、うれしくなる。


DS、CX、XMと続いた大型シトロエンは他にない強烈なキャラクターを持っていた。昔のSF映画に出てくるようなキテレツなスタイリングと超モダンなインテリア、とてもデリケートな運転操作方法、クルーザーのように優雅な乗り心地等々である。


シトロエンC6   シトロエンC6

シトロエンC6  BMWのミニをはじめとして、C6も自社の“デザイン遺産”をところどころ流用している。でも、レトロ趣味に陥っていないところが前向きで頼もしい。インテリアでも、カーナビをダッシュボード中央上部の特等席に設置している。保守的なヨーロッパの高級車は、まだまだカーナビに懐疑的なところがあるが、シトロエンはカーナビを新しいカー・コミュニケーションメディアのひとつと捉えていて、積極的に活用しようとしている。未来志向のシトロエンらしい。


  C6が輝いているのは、世界の自動車エンジニアリングと商品企画を席巻しているドイツ車的な価値観と方法論に染まっていないところだ。ハイテクを満載し、コンピュータ制御によってスポーツカー顔負けの速さを目指そうなんて、これっぽっちも考えていない。


  ローテクだし、速くもない。シトロエンには悪いけど、現代のクルマでは避けて通れない省燃費やクリーンな排気などに特別に気を遣っている様子もうかがえない。安全対策だって、普通だ。時代に媚びるようにして、さも昔から環境や安全のことを呻吟して来たような、クサい素振りなんて絶対に見せない。大人だ。でも、己に自信があるのだろう。顧客が自分に何を求めているかよくわかっているから、そこを一番に打ち出してきている。


  なぜ、そんな高潔な経営姿勢が採れるのか?


シトロエンC6  それは、シトロエンがアメリカ輸出を止めて久しいからに違いない。アメリカをアテにしなくてもやっていける自動車メーカーは少なく、台数を求めるだけの経営では間違いなく厳しくなる。が、反面、設計思想と商品企画においては大きな自由を得ることになる。


  ドイツ車的な価値観とアメリカ人受けを狙った商品企画。なんだ、どちらも日本車の得意とするところじゃないか!


  日本車から最も遠いところにいるのが、シトロエンC6だ。だから、独特の個性が魅力的に見えてくるのだろう。


シトロエンC6

モータリングライター 1961年東京生まれ。自動車と自動車にかかわる人間についての雑誌記事や単行本を執筆している。主な著書に、『10年10万キロストーリー』(1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。ここ数年、外国を長距離クルマで走ることが続いている。2003年には、東京からロシア・ウラジオストクを経由してポルトガル・ロカ岬まで自らのトヨタ・カルディナでユーラシア大陸を横断。2006年には、ダイムラー・クライスラーのイベント『パリ~北京』に参加し、ロシア・エカテリンブルクから北京までメルセデスベンツE320CDIで走破。2007年に引き続き、今年も、『トランスシベリア2008』に出場し、総合10位、クラス9位で完走した。
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