
ワインというお酒は不思議な飲み物。何処で、誰と飲むか、どんなお料理に合わせるかで印象が変わってしまいます。これまではワインの生産地でそのワインが生まれ育ったブドウ畑や醸造所を訪問し、オーナーや醸造家の話を聞きながらテイスティングするのが1番だと思っていました。ところが、生産地であるカリフォルニアのワイナリーより美味しくそのワインを飲める場所が日本にあったのです。

徳島の料亭「古今青柳」は日本を代表する和食の名店で、オーナーの小山さんはフランスのシェフ達とも親交の篤いグローバルな料理人です。小山さんのお料理を頂く為に出掛けたのですが、出掛けてみてその場所に驚きました。鳴門海峡を越え、小高い丘の頂上を目指すうち見慣れたカリフォルニアワインの名前を案内板に見つけたからです。
尾根という意味を持つ「RIDGE」はサンフランシスコからサンノゼ方向に向かう途中の山の上にあるワイナリー。スタンフォード大学の教授達が趣味で購入したワイナリーで現在のオーナーは大塚製薬です。ジンファンデルから造られた赤ワインがこんなに美味しいのかと感動した、大切な思い出のワイン。昨年ワイナリーを訪問した際、山の尾根から景色を眺めながらRIDGEというワイナリー名に感動していました。でも徳島の方がもっとすごかったのです。

鳴門パークヒルズと名づけられた見晴らしの良い丘に料亭青柳があります。10室のみのホテルRIDGEはそのお客様に食後もゆったりと過ごしていただくための宿泊施設です。窓の外には鳴門大橋。目の前の渦潮でもまれ旨味ののった鯛料理を堪能しながらRIDGEのカイザー・ヴィルをいただきました。お料理は色鮮やかで、器のふたを開けるたびにどきどきします。ただ美味しいのではなくて見目麗しいのです。そして鯛という1種類の魚が調理方法でまったく別のお料理に変化するのは華麗な手品を見ているようでした。驚きは翌日の朝食までつづきますが、知らないでお出かけいただいた方が楽しいと思うので秘密にしておきます。

鳴門海峡を眺めながら空と海と風に包まれる小高い丘。地元の食材から創られる料亭青柳のお料理は食すると至福の時。そしてRIDGEのワイン。ミシュランのガイドブックで3つ星のアラン・デュカスやマルク・ベッラ、スペインのエル・ブジそのどこよりも素敵でした。次にうかがう時はRIDGEのモンテ・ベロ(美しい山の意味)をゆったり楽しむことに決めているのです。