朝から晩までワインにどっぷりつかっているからなのか、本来の性格なのか、時々世間知らずな自分に驚いています。特に芸能やスポーツに疎く、レストランにご来店いただいた時、どんな方なのかよく分かっていないのです。
数年前の出来事を思い出した切っ掛けはテレビの芸能ニュース。X JAPANの世界ツアーが延期になったと報じられていました。YOSHIKIさんがドラムセットにダイブする映像が繰り返し流され、怪我をされたとの内容。不謹慎ながらソムリエールの頭をよぎったのはYOSHIKIさんにお抜きしたワインのボトルとその時の光景でした。
10年ほど前から日本でもワイン愛好家の中で話題となったカリフォルニアのカルトワイン。生産量がわずか500ケースのため入手は極めて困難です。フランスのシャトーCHラトゥールやCHマルゴーよりはるかに高価なカリフォルニアワインの名前はMAYA。
黒いどっしりとしたボトルに鮮やかな赤色でMAYAと書かれたラベル。オーナーはNaoko Dalla Valle、神戸出身の日本人女性です。1986年にイタリア人の旦那様Dalla Valle氏とワイナリーを設立。Naokoさんのルーツは日本醸造に関係があり、旦那様のご家族は175年以上ワインビジネスに携わっています。残念ながら旦那様は亡くなられNaokoさんがお一人でワイン事業を継続されています。近年は醸造コンサルタントが誰なのかが重要。以前はナパで超有名なハイディ・ピーターソン・バレット、ミア・クラインとアメリカ人女性が担当していましたが現在はフランスのカリスマ醸造家ミッシェル・ローランが就任。ワインのスタイルはよりエレガントに変化していくのでしょうか。
ボトルにサインされている日付けによればご来店日は2001年4月19日。1991年のMAYAをデキャンタージュ。空気をワインに取り込んで早く香りが開くよう念じます。オークビルの小高い丘で収穫されたブドウはワインになって10年経過していたのですが、バラの蕾みのように硬く閉じていました。グラスの中で少しだけほどけてきたワインの香りを楽しみながら、ワインの名前はオーナーのお嬢さんの名前であること、稀少ワインのためワイナリーメーリングリストに載っているお客様で完売してしまう事など説明。香りが開くにはあと何年待てばよいのか悩みながら未熟なソムリエールは会話していたのです。もうお会いする機会はないと思うのでYOSHIKIさんが早く元気に回復される事、そしてカリフォルニアで飲み頃のMAYAを飲んで本当の美味しさを知って下さっていることを祈っています。