日本では、サンタフェというと篠山紀信が撮影した宮沢りえのヌード写真集を思い出される方もいらっしゃると思うが、1980年代後半のアメリカ・ニューヨークはちょっとしたサンタフェブームだった。ニューメキシコ州のサンタフェは、アメリカ人憧れのリゾート地で、有名人や映画俳優は、こぞって別荘を建て、リゾーリという米出版社から『SANTA FE STYLE』という本が出版され、インテリアでもサンタフェがブームとなった。ニューヨークでは、「ZONA」という洒落たインテリアショップが人気となり(後に東京にも進出)、インディアンラグなども注目された。ラルフ・ローレンなどのニューヨークデザイナーたちもこのブームをいち早く取り入れたコレクションを発表、アメリカのネイティブスタイル好きのローレンは、ナバホラグ模様を編み込んだローゲージニットやコンチョのアクセサリーなどを作り、話題を集めた。クールで都会的なスタイルを得意とする大御所カルバン・クラインでさえ、珍しく自ら登場した広告ではサンタフェで撮影。ジョージア・オキーフの家で、独特なアドービ色の土壁の家の中に横たわる彼のアンニュイな姿が今でも印象に残っている。80年代のアメリカは、それほどのサンタフェブームだった。
そんなニューメキシコ州のサンタフェという街にすでに65回も行っている、いや通っている人がいる。新潟県上越市で「BEAR TRACK」というショップを営む小林正茂さんだ。65回目の渡米前日、東京・神田で待ち合わせをし、じっくりをお話を伺った。
小林さんが初めてサンタフェを訪れたのは、1989年6月のこと。実はこれが小林さんにとって初の海外旅行、ハワイやニューヨークでもなく、いきなりサンタフェに行ってしまったというから、よほどサンタフェに惹かれた理由があったに違いない。その頃、小林さんはアパレル会社を経て、靴などを中心に扱う会社に勤務していた。元々アメリカ好きで、『Made in U.S.A. Catalog』や『ポパイ』などを愛読していたが、20代前半のときに出会ったのが、『The West』という洋書。アメリカ西部と南西部のアトリエやショップなどを映した写真集で、その中にたまたま載っていたニューメキシコ州のチマヨベストの老舗、オルテガやセンチネラという店が取り上げられていた。そしてその店や製品のエキゾチックさに魅せられたことはいうまでもないが、さらに80年代後半の『SANTA FE STYLE』にも影響され、サンタフェ、チマヨへの思いが高まったのだという。