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手縫いが本当にいいのか!


 

 最近、九州・宮崎にあるスーツの工場に行ってきた。これまで内外のいくつかのスーツ工場を見てきたが、縫製工場としてはかなりの規模。敷地面積で2600坪、従業員数420人以上というのは、すごい。しかも日本の多くのスーツメーカーが生産拠点をアジア、特に中国に移す中、創業以来40年近く、宮崎でずっとスーツを作り続けているという事実も素晴らしい。工場の名前は「ダーバン宮崎ソーイング」。その名の通り、あの「ダーバン」のスーツを作り続けている。

 

 90年代に流行したクラシコイタリアの影響からか、スーツというと、どうしても職人的匠の技で仕立てることに価値が置かれることが多いが、それはあくまでフルオーダーなどのスーツの場合だ。我々が普段着ているスーツはレディメイド=既製のスーツ、あくまで工業製品である。だから機械で縫えるところは機械で縫い、クオリティが安定し、価格も押さえられている方が普通の人が着るときには、いいに決まっている。よく中国製のスーツで「ハンドメイド」を謳っている場合があるが、あれは中国の豊富な労働力あってのこと。以前「フルハンド」といわれる中国産スーツを有名な職人さんに分解してもらったが、ミシンで縫われた箇所も多く、その表示に偽りあり、と感じたこともあった。まぁ、「ハンドメイド」そのものの定義だってあやふやだが……。

 

 

手縫いが本当にいいのか!

 

 

 この宮崎のスーツ工場は早くからコンピューター制御の機械を各部所に導入、機械でできる部分は機械に任せ、その分、スーツを縫うほかの箇所に精力を注いでいる。しかし機械化したとしても自動車やお菓子などを作るようには自動化はできない。原料を機械に放り込み、出口からスーツが出てくる、なんていうことは、あのユニクロでもできない。なぜなら服は平面の生地を人間に合わせ、立体的に仕立てるからだ。ましてやスーツの場合、パーツも多く、「いせ込み」「追い込み」といった職人的テクニックを使い、複雑な人間の身体にスーツを沿わせ、さらに「着心地」「フィット」という皮膚感覚に訴えないと売れない。そこには人間の匠的な技が絶対、必要になるのだ。そのためにこの工場では、古くからスーツ作りをしている60歳以上のスタッフを大事にし、独自の「マイスター制度」を設け、若いスタッフの人材育成にも励んでいる。さらに本社と組んで、優秀なスーツを徹底的に解剖、欧米人に比べ、扁平で肩の位置も違う日本人の体型を研究し、日本人に合った、日本の気候に合ったスーツ作りに日々努力しているのだ。高温多湿な日本の気候に合わせ、縫製工場は湿度60%に保たれているというこだわりようだ。

 

 

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