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どこにもない服、これこそデザイナーの仕事です


 

 仕事で原宿に行くと「H&M」「FOREVER21」などのいわゆる「ファストファッション」が相変わらずの盛況だ。情報社会の発達でパリやミラノで発表されたモードが即日ネットで全世界に発信されるようになり、流行に時差がなくなってしまい、流行っているものをすぐに商品化し、確実に売れるものが作れる「ファストファッション」の売り上げが伸びていくのは時代の象徴といえるだろう。が、何かファッションが同質化してしまったようで、ファッションに長く係ってきた私にとっては少し寂しい気にもなっているこの頃である。

 

 

どこにもない服、これこそデザイナーの仕事です

 

 

 友人に加賀清一さんというデザイナーがいる。もう20年近い付き合いになるだろうか。最初の出会いは私が以前いた出版社近く(直線距離にしてわずか100m)の会社で、面白い服を作っているブランドがあるというので見に行ったのが始まり。英国から輸入した編み込みのニットを、さらにパッチワークにしたベストや軍が使っていたモスキート用のネットを表地の上にレイヤードしたアウターなど、いずれも凝ったデザインのものばかり。トラッドの匂いは残してはいるが、それまで私が見てきた服とはまったく手の掛け方が違う。彼のクリエイティビティは、その後携わった「ヒピハパ」「PATRICK BY TASUKI」などでさらに増幅される。裏表が着られるリバーシブル仕様だが、表がトレンチ、裏がダッフルになったアウター、チャイナ襟のシャツは「ヒピハパ」の代名詞的なシャツとなった。防弾チョッキに使われるケブラー素材のセーターにも度肝を抜かれた。最近の作品では、アウターで表がモッズコートで裏がライダージャケットというものもある。裏返すとデザインだけでなく、服の長ささえも変わってしまうのだ。「どこにもない服」であることはいうまでもないことだが、「どうやって作ったのか、わからない服」、これが加賀さんの服の大きな特徴だ。

 

 

どこにもない服、これこそデザイナーの仕事です

 

 

 そんな加賀さんが今年の秋冬から3年ぶりに「ヒピハパ」のデザイナーに復帰した。「ヒピハパ(jipijapa)」、パナパ帽に使われる高級なエクアドル産の葦がブランド名の由来。加賀さんが昔訪れたニューヨークの帽子メーカーで聞いたその素材名の語感と綴りが気に入って名付け、1992年にブランドをスタートさせた。「そこで帽子の話をしているときに、今はお洒落を忘れちゃってルールも何にもなくなっているけど、昔お洒落をする上でのルールでいちばんうるさかったのが帽子。お洒落するときには、心に帽子は必要なんだよ、ということでハートに帽子が被っているマークを考えたんです」と加賀さん。嬉しいことに復帰した今シーズンは、「ヒピハパ」の代表作をバージョンアップさせたものばかり。2つの型紙で作られる2パーツジャケットやチャイナディテールなどを中心とした個性的なシャツなどをラインナップ。久しぶりにヒピハパらしい雰囲気が感じられた。次のシーズンは、と話を向けると「“服以外のものになる”のが次のテーマのひとつなんです(笑)」といい、次作の試作品を嬉しそうにいろいろと見せてくれる。

 

 

どこにもない服、これこそデザイナーの仕事です

 

 

 「誤解されては困るんですけれど、たとえば入れ墨の図柄の中に足元に提灯が彫ってあって、何だろうなと思うと、それは『足元が明るいように』という意味合いがあって、そういうのって、シャレが効いていると思うんです。洋服にもそういうのがあれば楽しいなと思うんです。刺しゅう、形、ディテールなどどこでいうのかわかりませんが、どこか男の服って遊びがあったり、冗談があったり、そりゃぁ冗談でも真剣にやるのがいいんですが、そういうシャレや遊びが服で表現できればと思います。デザインしていて、それが出来上がったときが本当に嬉しいですね」

 

 

どこにもない服、これこそデザイナーの仕事です

 

 

 東京下町で生まれ育った江戸っ子らしいたとえ噺だが、ヒピハパ=加賀さんのデザインセンスを如実に表している。しかもその「シャレ」や「遊び」がデザインだけに終わらずに機能や形になっているところが加賀さんの素晴らしいところだ。2010年春夏向けの試作品を見る限り、その面白さと創造性はさらに加速していると思えるが、とても今回のスペースに収まり切れないので、現物が出来たときに、またその話の続きと紹介をしたいと思う。