TOP > Fashion > ファッション コンシェルジュ 小暮昌弘 > 私の大好きな靴、スタンスミス

私の大好きな靴、スタンスミス


 

  先日ミズノクリエーションの展示会でデザイナーの渡辺拓さんにお会いした。何でも2009年春夏のコレクションでは機能的なアイテムに加えて、少し使い込んだようなカラーパンツを提案するとのこと。昔お気に入りのパンツが使い込んで、少し色褪せた感じを出したかった、とおっしゃっていたが、渡辺さんがそのパンツに合わせていたのが、アディダスのハイレットのテニスシューズ。名品スタンスミスの元になったモデルで数年前に復刻して、私も持っているスニーカー。海辺の日差しで焼けてしまったような色のパンツに真っ白な靴が実に印象的だった。

 

私の大好きな靴、スタンスミス

  実は私もスタンスミスは大好き。初めてスタンスミスを手に入れたのは、1980年代。あの頃のアディダスは西ドイツ、今のドイツ製とフランス製が多かったが、スタンスミスは後者。たぶん30年近く前で今のハイレットと同じくらいの価格だったと思う。6足くらい同じものを買い、履き回していたが、徐々にどこかに行ってしまい、今ではメイド・イン・フランスのスタンスミスで手元に残るのは1足。少し経つと韓国製が輸入されるようになったが、韓国製はやはりシルエットも作りも違っていた。友人のグラフィックデザイナーのホームパーティに招かれた際に玄関に同じくらいの大きさのスタンスミスがあった。脱ぐときに少し不安を憶えたが、帰るときに残っていたのは自分のではない韓国製のスタンスミス。サイズはぴったりなので、酔った誰かが間違って履いていってしまったのだろう。でも他人の靴はあまりに履き心地が違い、すぐに廃棄してしまった記憶がある。

 

 

私の大好きな靴、スタンスミス

 

 

  スタン・スミスは1971年に全米プロオープンで優勝した有名なプロテニスプレーヤー。彼がロベール・ハイレット(フランス人なのでロバール・ハイレと呼ぶ人も)と呼ばれる真っ白なテニスシューズを愛用していて、優勝を記念し、それ以降、この靴は彼の名を冠して「スタンスミス」と呼ばれることになった。スタンスミスの元になったハイレットのデビューは1965年。初のオールレザーのテニスシューズと呼ばれ、アディダスの3本ラインの代わりにサイドに通気口でストライプが付けられている、シンプルなテニスシューズらしいデザインが特徴だった。

 

 

私の大好きな靴、スタンスミス

 

 

  それ以来、継続して販売され、90年代には販売足数でギネスブックに載ったという話も。もちろん販売総数では、コンバースオールスターには遠く及ばないが、定番的なスニーカーとしては驚くほどロングセラーを続けるモデル。毎年、多くの派生モデルも発表されるが、このハイレットのように革も仕様も違うワンランク上のスタンスミスも時には登場する。人とちょっと違うモデルを履きたいと思う人はこれを手に入れるといい。機能的にはハイテクシューズには及ばないが、どんなスタイルにも合い、流行に左右されない名品中の名品だ。

 

 

私の大好きな靴、スタンスミス

 

 

  ファッション業界にもスタンスミスファンは多く、有名なところでは、ルイ・ヴィトンのクリエイティブディレクター、マーク・ジェイコブスも愛用。オリーブカーキのパンツに白のスタンスミスでランウエイショーのエンディングに登場してきたのを見た記憶がある。これは私見だが、日本を代表するスニーカー、VISVIMの白のスニーカーもスタンスミスの匂いを感じることができる。アッパーが真っ白で、アーチサポートのところにヌメ革風のパッチが貼られている。オリジナルに敬意を払いながらデザインするVISVIMの真骨頂といえるだろうが、デザイナーの中村さん、間違っていたらごめんなさい。

 

  シンプルなデザインで、これ以上デザインする必要がないほど完成された靴、傑作品とはこうしたものを指していうのだろう。