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「一点モノ」に私が惹かれる理由


 

 とあるテレビ番組で、あるブランドのフランス人社長が、「日本人は限定商品に弱い」と言っていた。H&Mが有名デザイナーとコラボしたときなど、外国人でも開店前からみんな並ぶので、この傾向は日本人に限ったものではないだろうが、「限定」は、実に消費者心理をついた言葉だ。

 

 かくいう私も「限定」には弱い。洋服でも食品でも、「今、買わなければ、もう手に入らない」と思うと、つい手に取ってしまう。靴など、まるでコレクションを揃えるような感覚で買ってしまうことも昔は多かった。メーカー側のマーケティング戦略にまんまとハマってしまったわけだ。

 

 しかし最近買うのは「一点モノ」だ。とはいっても、いわゆる作家モノや手作りの逸品というものではない。ジーンズなどのヴィンテージ品のように価値はあるが高価、というものでもない。投資目的というのもない。どちらかといえば安価で、手に入れたときに、得をして幸せな気分になれる「一点モノ」を探している。

 

 

「一点モノ」に私が惹かれる理由

 

 

 では、どういうところでそれを入手するかというと、例えばフリーマーケット、いわゆる蚤の市。外国に行って暇ができると必ず覗く。内外のアウトレットショップも大好きだ。売れ残った商品の中に意中の商品と遭遇する場合もある。日本で地方都市に出掛けたときに必ず探すのが裏通りの店。原宿の「裏原」ではないが、裏通りに個人経営で面白い品揃えをした店がある場合が多い。だいたい表通りは家賃も高いし、東京と変わらない店が進出していることが多い。知らない街では、カッコいい若者たちの跡を付けて、面白い店を発見することもある。こういった裏通りに多い、古着屋さんも狙い目。古着自体はもちろん一点モノだが、最近はデッドストックといわれ、倉庫に眠っていた新品や現地で直接買い付けてきた人気ブランドの商品が安値で並ぶこともある。

 

「一点モノ」に私が惹かれる理由

 こうしたショップや状況でも「流行り」はあるのだが、私が狙うのは、B級グルメではないが、人があまり注目していないブランドや商品。自分が昔持っていたものや買えなかったもの、あるいは気になっていたものなど。流行とは関係なく、あるいは流行遅れになったものなど。ずっと探していたものを偶然見つけたときなど、長年の恋人に遭えたような幸せな気分になれる。しかもそれが安価で手に入ればなおさら上機嫌になる。みんなが流行っているものを探しているときに、ひとりだけ天の邪鬼に逆の方向を向くわけだ。

 

 フリーマーケットはいつも覗く立場だったが、先月、久し振りに自分で出店してみた。約2年ぶりのことで、確か4回目ぐらいの出店。自宅を整理して使っていない靴や服、小物などを中心に持っていった。普段は買う立場ばかりなので、たまには売る側に回るのもいい経験になる。朝早くには業者と思われる人がすぐに寄ってきて「○○○○は持っている?」「○○○○があるなら、見せて」と荷物を広げる前から声をかけてくる。今、街で何が望まれているか、という気配もわかり、ちょっとした市場調査にもなる。

 

 

「一点モノ」に私が惹かれる理由

 

 

 今回は来日していた英国デザイナー、ポール・スミスにばったり。前日に関西から戻り、その日の便で帰国するというのに、フリマまで覗くとは、さすがポール。以前には築地や銚子まで市場を出掛けたと聞いたし、「どこにでも創作のヒントはある」といつも言っているくらいだから、モノを探しにきたのではなく、発想を探るためにこんな場所にまで来たのだろう。私の場合、そんな境地まで到達せず、目的はあくまで物欲のため。しかし自分の目指すものを見つけた瞬間の「モノと対話している」感覚が好きで「モノ」に執着しているのだ。「一点モノ」ならなおさらその感覚は増幅する。