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BACK TO SCHOOL, BACK TO“TAKE IVY”


 

BACK TO SCHOOL, BACK TO“TAKE IVY”

  友人でニューヨーク在住のデザイナー、鈴木大器さんのコラムをネットで読んでいたら、アメリカの新聞NY Timesが『TAKE IVY』の特集を組んだらしい。鈴木さんによれば、アメリカで有名なファッションブロガーがこの本を取り上げ、それを見たブロガーが次々と取り上げ、話題に拍車をかけたらしい。そして今では、2006年に発売された復刻版でも、Eベイ(アメリカ最大のオークションサイト)で、1,000ドルの高値(他のサイトでは2,000ドルという記述もある)で取り引きされているらしい。

 

 

 

  『TAKE IVY』は、私が昔所属していた婦人画報社から昭和40年、1965年に発行された写真集だ。当時、日本にIVYスタイルを流行らせようとしたアパレルメーカーのVANがアメリカのアイビーリーグという有名校(ハーバード、イエール、プリンストン、ペンシルバニア、コロンビア、ダートマス、ブラウン、コーネル大学)を取材し、当時の学生たちのスタイルをスナップして、まとめたものだ。もちろん写真だけでなく、巻末には大学の解説から当時のカレッジライフ、ワードローブの説明まで詳しく載っている。

 

BACK TO SCHOOL, BACK TO“TAKE IVY”

 

  私が持っているのは昭和50年に復刻されたもので、会社にも在庫がほとんどなかったので、私が編集長時代に、セレクトショップ、SHIPSの協力を得て、2006年にSHIPSの店頭と自社のウエブサイトで、部数限定で復刻させた。全体の部数も少なかったのに、アメリカ人の眼に触れる機会があったことに、まずはびっくりした。写真集なので、アメリカ人が見ても容易に理解できたのかもしれないが、当時のアメリカの学生たちのスタイルを知るには貴重な資料だし、メンズファッションはここ数年、IVY的な要素が欠かせない。

 

  最近、この本の筆者のひとりである、くろすとしゆきさんに久し振りにお会いしたところ、『TAKE IVY』に関する面白い話が聞けた。VANがアイビーリーグを取材した当初の目論みは、写真集の製作ではなく、ショートムービーの撮影にあったらしい。IVYスタイルの宣伝、今でいうプロモーションのために、アイビーリーグの学生たちの姿を映したショートムービーの製作を計画したのだ。そして、それならば一緒にスチール写真も、とカメラマンの林田昭慶さんが撮影に同行、それが後に『TAKE IVY』という一冊の本になったらしい。つまり映像を撮ることが最初の目的だったのだ。今でこそプロモーションビデオは普通のことだが、当時としては画期的な試みだったに違いない。そしてこのフィルムに音を付けたのは、当時ニューヨークに留学していた作曲家の中村八大さん(『上を向いて歩こう』『明日があるさ』で有名)で、現地で頼み込み、日本に戻っての中村さんの初仕事がこれだったらしい。当時、VANは全国各地でこの映画の上映会を開催、簡単なファッションショーとミッキー・カーチスさんなどによる生バンドも入り、当時としては派手なイベントであった。もちろん、くろすさんもフィルムと一緒に日本全国を回ったという。第1次アイビーブームの頃だったので、会場は熱狂的なIVYファンで埋まったことが容易に想像できる。

 

BACK TO SCHOOL, BACK TO“TAKE IVY”

 

  数年前に仲間を集めてこの映画の上映会を開くという話を業界の方から伺ったことがある。残念ながら仕事で行けなかったのだが、チャンスがあれば、ぜひとも見てみたいものだし、この写真集に興味を持つアメリカ人にも見てもらいたいものである。