今でこそ、パソコンで原稿を書いているが、編集者になりたての頃はすべて手書きで原稿を書いていた。20字詰め×10行の原稿用紙、業界でいうところの「ペラ」の原稿用紙に赤のサインペンで文字数を指定し、鉛筆で文字を埋めていったのだ。それからしばらくしてワープロが登場し、原稿自体を手書きで書くことはなくなってしまったが、雑誌の表紙に使う言葉やアイデアを考えるときには、紙に手書きで向かうようにしていた。パソコンで文章を作るとなんとなく言葉を配置するような感覚を持っていたし、先輩から「モニターを見ながら作った文章には勢いがない」といわれたことがあるからだ。
今でもキャッチフレーズを考えるときなどは、アナログのこの形式がいちばん。もちろん慣れているということもあるだろうが、思いつく言葉を書き並べて、線で結んだり、二重線で消したりしながら、文章を作り上げる。これはデジタルの世界にはありえないことだ。最近そんなときに使う筆記具は、何故か万年筆。昔ならちょっと濃い目の鉛筆か太い0.9mmのシャープペンシルだったが、ここ5年くらいはブルーブラックのインクの万年筆がほとんど。最近ではメモを取るときでも、万年筆を使うことが多い。滑るような書き心地と紙ににじむ独特の色が自分の書く速度や気持ちとマッチしている気がする。
そんなときに出会ったのは「オマス」という万年筆。1925年にイタリアのボローニャに創設された歴史あるメーカーで、独特なデザイン性と職人気質が込められている。ギリシア神殿の12面円柱を模した「アルテ イタリアーナ」は、持ちやすく、しかも書き味も抜群で同社を代表するモデル。正三角形のボディを持った「360」や可動式のクリップを持った「エモティカ」など、イタリアらしくデザインは秀逸。
2009年のリミテッド・エディションは「種の起原」を書いたチャールズ・ダーウィン生誕200年を記念したもの。ボディには当時帆船の素材として使われていたオーク材を。航海旅行の地図や軍艦ビーグル号が描かれている。さらにキャップのヘッドやリングにはダーウィンにちなんだ刻印、デザインが施されている。工芸品ともいえるような細工にイタリアならではの技がふんだんにこめられている。私のように落書き程度に万年筆を使うには、もったいない逸品だが、作り手の技術と思いが込められたモノには命が宿っているかのような感激を覚える。
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