イタリア、いや世界的に話題のブランド、ブルネロ クチネリの路面店が東京・南青山にオープンした。店舗デザインはミラノ、ロンドン、ニューヨークなどの同ショップも手掛けたイタリア建築家ロレンツォ・ラディ氏。ブルネロ クチネリのコレクションの色に似たグレー、ベージュ、白を基調としたナチュラルトーンの店内の中でゆったりとショッピングが楽しめる。
オープンに合わせて来日したブルネロ・クチネリ氏、これまでもピッティ・ウオモ(イタリア最大のメンズ見本市)で何度かお目にかかったことはあるがゆっくりと話をするのは初めて。その特徴的なコレクションの色を尋ねると、「ネイビーとかグレーでコレクションをまとめるのは一般的ですね。人は他の人とは違うものを求めるものです。ある意味、私のコレクションはそういった人に向けたものです。それにグレーなどの中間色ですと、アクセントに色を使った場合でもすごく映えますよ。今日の僕のポケットチーフのように」と語る。
この日、彼が胸に指していたのは、赤のポケットチーフ。確かにコーディネイトのポイントになる。それに中間色でまとめたコーディネイトは上品で、しかも他にないもの。以前にもこのコーナーで「ブルネロ クチネリ」を取り上げたが、イタリアで「クチネリ風」と言われたり、コピーまがいの商品が出ていたりするのもわかる気がする。
アメリカコネチカット州に「ミッチェル」という有名なセレクトショップがあるが、オーナーがクチネリ氏を訪問した際に自ら服を選んであげたという。それまではオーナーのミッチェル氏はエルメネジルド ゼニアなどのコンサバティブな服を着ていたのだが、全身ブルネロ クチネリでコーディネイトすると、不思議、と若々しく。太いパンツをクチネリ流に細く、色もグレイッシュに、組み合わせも個性的に。ミッチェル氏もすごく気に入り、今ではショップに大きなコーナーも出来ているという。こういったクチネリファンが世界中に増幅している。インタビュー前日、伊勢丹新宿店のイベントに訪れた顧客の中には、60代の男性もいたとか。「僕のコレクションは人々を若々しく見せる効果もあるのです」と語るクチネリ氏。確かにカジュアルウエアはそうした側面を持っているが、ブルネロ クチネリは単なるカジュアルウエアの範囲を超えている気もする。
『イタリア人の働き方』(内田洋子・シルヴィオ・ピエールサンティ著 光文社新書)によれば、ブルネロ クチネリは世界一美しいカシミア製品を作るメーカーである。昔からクオリティの高さで知られるブランドだった。しかしその理由を本人に尋ねると「軽さを追究したかったんです。今日履いているカーゴパンツ、このコットンも非常に軽い。でもとっても高い素材なんですよ」と。「軽さ」を求めた結果、高級素材に行き着いたのだという。ブランドの価値を高めるために高級素材を使うのではなく、自分の目指すものを探した結果がたまたま高級素材であったという、その「軽さ」もクチネリ氏らしいフレーズ。
同じ本でクチネリ氏は成功の秘訣を「それは愛情です」と断言する。彼の会社はソロメオ村の修復に代表されるように、環境にも働く従業員にも優しい会社として有名だが、コレクションを含めて自分の回りすべてに愛情を注ぐブルネロ・クチネリ氏。だから彼の回りにも多くのファンが集まってくるのだろう。そんな彼のオーラをまずは青山店で味わってもらいたい。(撮影/緒方栄二)