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本物のラグジュアリーとは?


  日本のファッションブランドでも、そのバックボーンやコンセプトを表現するときに「ライフスタイル」という言葉を使いますが、欧米に出掛けると本当にその言葉が服に表現されていると痛感します。それはカジュアルウエアによく表れていて、「ラグジュアリーカジュアル」とでも呼ぶような非常に高級なカジュアルウエアが数多く存在します。日本ではカジュアルというとドレスウエアに比べると低価格で、ランクの低いもののようなイメージがありますが、欧米ではこのジャンルの服が確実に存在するのです。クラス社会、あるいは富裕層の格の違いといってもいいのかもしれません。



  今回紹介する「ブルネロ クチネリ」もそんなブランドのひとつ。カシミアなどの高級素材を使ったコレクションではかなり昔から定評のあるブランドでしたし、近年ではジャケットにベストを重ね着したり、裾をロールアップする独特の着こなしで本国イタリアはもとより、日本でもその異才が評判になっていました。数年前に発売されたカシミア素材のジムウェア、これはファッションというよりはトレーニング用に作られたもので、そのラグジュアリーさはこのブランドならではの発想でした。


  しかしそういった商品以上に驚かされるのは、オーナーであるブルネロ・クチネリ氏のビジネスのやり方です。彼がビジネスを始めたのはイタリア・ウンブリア州のソロメオ村。人口500人、14世紀に建てられた中世の家屋の並ぶこの街の城の中に本社があります。彼はここでこの街の人々と製品を作るだけでなく、中世の街並、公園や広場、美術館、劇場などの改良・復元につとめています。もちろん製品一点一点は手作業で十分な時間と手間をかけ、自分の目の届くところで、徹底してこだわった製品作りを行っているのです。そしてクチネリ氏は、一緒に働く人を「考える人」と呼んでいます。単なる経営者&デザイナーと従業員という関係でなく、もっと密接でお互い尊敬を持つ環境の中からブルネロ クチネリの製品は生まれてくるのです。彼が街の環境作りを行うのもそのひとつ。こうしたサスティナビリティ(持続性)を持つビジネスこそ、次代に求められるものであり、本当の意味でのラグジュアリーなのかもしれません。


  最近、ユナイテッドアローズや伊勢丹などで扱われる「バンフォード&サンズ」などもラグジュアリーカジュアルのジャンルに入るブランド。ここは原料にまでこだわって作っています。素材メーカーとして有名な「ロロ・ピアーナ」のコレクションもそのムードを持ったブランドといえます。これらのブランド、確かに高価なアイテムですが、その価値は確かなものですし、さらに確固たるクラスとライフスタイルをベースにしており、これからのカジュアルを考える上でのヒントも込められています。