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不思議なファッション用語


  とある有名な日本人ハードボイルド作家にインタビューしたときのことでした。話がファッションのことになるとその作家がクレームを言うのです。「君の雑誌では、4ボタンのブレザーのことを『ニューポートブレザー』と呼んでいたでしょう。アメリカのメンズショップに行って、それを欲しいと言ったら、全然通じなくて、恥をかいちゃったよ。嘘つき(笑)」。「ニューポートブレザー」の名前を知っている方はそうとうご年配の方かもしれませんが、そうなんです、これは和製英語で、欧米ではまったく通じません。同じく「トレーナー」も「スタジアムジャンパー」も通じません。



  実は、1960年代に一世を風靡したVANが命名した言葉。「ニューポートブレザー」は、ボタンの数に限らず「ダブルブレステッドブレザー」。ジャズの祭典、ニューポートジャズフェスティバルでミュージシャンがこのタイプのブレザーを着ていたことから命名されたと言われています。「トレーナー」は「スウェットシャツ」、「スタジアムジャンパー」は「アワードジャケット」「ベースボールジャケット」などと言うのが正解です。



  いずれも、スポーツ用語が由来でしょう。アメリカなどの欧米で通じるかどうかはともかく(いや、絶対通じませんのでご注意を!)として、VANらしいいい響きを持つ名前です。名品の「バラクータ」タイプのジャンパーを「スウィングトップ」と名付けたのもVANです。ゴルフの「スウィング」から付けられたのですが、いや、VANのゴットファーザー(名付け親)としての才能はそうとうなものです。

  少し古い言い回しかもしれませんが「Gパン」も変な言い方です。英語の綴りからすると「Jパン」のはずで、戦後、米兵士のGIが多くはいていたことから「Gパン」と名付けられたという説が一般的です。当然ですが「Gジャン」も通じません。「ジーンジャケット」「デニムジャケット」というのが正しい言葉です。



  スーツなどの袖口のボタン穴を実際に開けることを「本切羽」と言いますが、これは「本開き」が正しい言い方だと思います。英語では「Real Button Hole」と呼びます。「切羽」とは本来は、日本刀の部品を指す言葉でして、「切羽詰まる」とは「物事が差し迫った状態でどうしようもならなくなった様」のことです。つまり「切羽」は、「それ以上先へ進めない場所」であることから、袖口がこれ以上開かない場所をこう言ったのだと思います。



  以前、あるライターの人から、「自分が雑誌と組んで、命名した言葉」だと聞いたことがあります。その人が名付け親かどうかはわかりませんが、VANに負けず劣らず、昔風の素晴らしいネーミングであることは確かだと思います。もちろん現在では、多くのテーラーで通用する言葉になってはしまいましたが。いやぁ、ファッション用語って、時代と共に移り変わりますね。