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「ストーリー」は「モノ」より雄弁です


  「L.L.ビーン」というブランドをご存知でしょうか?今では、日本各地にもショップがありますので、比較的簡単に商品が手に入りますが、私がこのブランドを知ったのは、1970年代に作られた幻(?)のムック本『Made in USAカタログ』です。この2号目で目にしたのが「L.L.ビーン」の本店の特集でした。


  そのころからいつかはこの店に行きたいと思っていましたが、幸運にも2度、「L.L.ビーン」の本店に行くことができました。本店があるのは、メイン州のフリーポート。アメリカ東海岸です。ボストンからは確か車で数時間。風光明媚、豊かな自然の中にこのお店はあります。取材したのは9月でしたが、店内はお客様でいっぱい。まるで倉庫のような巨大な建物がいくつも建ち、店内には人工ですが、小川が流れ、そこに来店した人があふれているのです。とても撮影ができる状態ではありません。そこで、撮影は人が比較的少ない、夜10時から行うことに。実は、「L.L.ビーン」の本店は夜でも開いています。「L.L.ビーン」が創業されたのは、1912年。創業者は、レオン・レオンウッド・ビーン。お店の噂を聞いて、アウトドアマンたちが商品を買いに夜中、あるいは明け方でもお店のドアをたたくので、ついには店の鍵を捨ててしまったという逸話が残されています。「L.L.ビーン」の本店は今でも24時間、365日開いています。

  夜の10時。まだお客がいます。昼間の観光客に代わって、今度は何か必要なもの、ことがあって店を訪れた人です。大型の登山用のバッグを実際に背負って試している人や、愛用の靴の底を修理するために訪れた人・・・。20世紀初頭、「L.L.ビーン」の店を訪れていた人たちと同じ光景がそこにありました。

  こうしてメイン州のアウトドアシーンや自然と直に接しながら100年近くの歴史を保ってきたのが、「L.L.ビーン」です。やはりこのような光景の中で見る「L.L.ビーン」と、日本の都会で見る「L.L.ビーン」は違います。例えば、服。日本で見ると、「ちょっと無骨過ぎる」と思えた服も、こんなシーンの中ならば、こうした服が必要だし、似合うと感じました。ファッションセンスをうんぬんする服ではなく、アメリカ人の普通の生活に根ざした服なのです。「L.L.ビーン」で作られるモノは、生活の中から考えられたもの、必要に迫られたものがほとんど。つまり実用品なのです。もちろん、今では多くの顧客のことを考え、ファッションセンスも加味してはいますが、デザインのためのデザインは、このブランドの本筋ではないと思います。このブランドが考案した「メイン・ハンティング・シューズ」「トートバッグ」などの商品には高いオリジナル性があり、「本物」の風格が感じられます。多くのブランド、デザイナーも「L.L.ビーン」に影響を受けた商品を発表しています。

     

  皆さんも今度、このブランドのお店を日本で覗く機会がありましたら、ぜひ目を瞑って、アメリカのメイン州の片田舎を想像してみてください。そうすると、飾れているTシャツやパーカなどのアウトドアウエアも、あるいはバッグやギアなども、少し違って見えてくるかもしれません。ブランドは、作られる「モノ」も重要ですが、そのバックボーンを知ると、「モノ」以上のことが手に入れることができます。今回はそんなことを知ってほしくて、アメリカの片田舎にあるアウトドアショップの話をしました。