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メルセデス・ベンツ


  メルセデス・ベンツEクラスが7年ぶりにフルモデルチェンジした。先代に較べ、今度のEクラスはシャキッ、パキッとエッジの立った平面と直線が多用されている。ボディは、全長で20ミリ、全幅が35ミリ、ホイールベースが20ミリ拡大された。

 

  車内空間は、さすがにCクラスよりも格段に広く、余裕たっぷりだ。ダッシュボードやドアトリムがヒサシ状になった裏側の照明を間接照明として用いている。他メーカーでも取り入れている手法で、走行性能とは直接関係ないとはいえ、車内の雰囲気を高級クラブやラウンジのように演出する効果はある。


 

  日本に導入されるEクラスは、まずは3種類のエンジンバリエーションで構成される。3リッターと3.5リッターのV6、5.5リッターのV8だ。

 

  新しいボディはサイズが拡大されただけでなく、衝撃吸収するクラッシャブルゾーンと堅牢なパッセンジャーセルを実現し、乗員保護性能を向上させた。同時に、ねじれ剛性も31%も向上し、不快な振動を低減し、操縦安定性と乗り心地を向上させている。

 

  実際に、E550アバンギャルドに乗ると、5.5リッターV8のパワーで、軽やかに加速した。どんなクルマでも、加速の際にはエンジンからの振動や音がボディと車内を振るわすものなのだが、E550アバンギャルドには大袈裟ではなく何ごとも起こらないのだ。速度が上がったことは、窓の外を見なければわからない。

 

  加速を終え、高速巡航に入っても、E550アバンギャルドは別世界だ。ガッシリとしたボディはミシリとも言わず、よく動くサスペンションが路面の細かな凹凸やクルマの動きをキメ細かく吸収して、とても滑らかに移動していく。デコボコやザラザラ、ガタガタといった低級な振動や音などから、一切無縁の、きわめて快適な車内だ。

 

  パワーがあるから、加速に余裕がある。ブレーキが強力だから、短い距離で安定して減速できる。他のクルマの「たいへんな想いをして高速で走っている」感が、まったくないのだ。いい意味で、スピード感がない。余裕、余力、上質、高級、饒舌……。さまざまに形容しても、し切れない。

 

  E350アバンギャルドでも、それは変わらない。最も大きな違いはエンジンの気筒数と排気量、エアサスペンション(E550アバンギャルドに標準装備)だ。E550アバンギャルドとの違いは大きいとも言えるし、そうでもないとも言える。この判断は難しい。各々がクルマに何を求めるかで大きく左右されてくるからだ。

 

  ドライビングポジションと運転中の視界に優れ、ハンドルがよく切れる。なかなかわかりにくいが、長距離を走ると如実に優劣が出る基礎中の基礎も、盤石だ。懐が深く、抜群に安定している。各種の安全装備も、実効性が伴いそうなものが多い。ずっと昔からメルセデス・ベンツが備えていたいくつもの美点を、現代のフロントラインにまでアップデートさせたのが新しいEクラスではないだろうか。今後の展開にも注目したい。

 

 

 

 

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モータリングライター 1961年東京生まれ。自動車と自動車にかかわる人間についての雑誌記事や単行本を執筆している。主な著書に、『10年10万キロストーリー』(1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。ここ数年、外国を長距離クルマで走ることが続いている。2003年には、東京からロシア・ウラジオストクを経由してポルトガル・ロカ岬まで自らのトヨタ・カルディナでユーラシア大陸を横断。2006年には、ダイムラー・クライスラーのイベント『パリ~北京』に参加し、ロシア・エカテリンブルクから北京までメルセデスベンツE320CDIで走破。2007年に引き続き、今年も、『トランスシベリア2008』に出場し、総合10位、クラス9位で完走した。
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