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トヨタ・プリウス


  発表3週間にして、13万台もの予約が入った新型トヨタ・プリウス。大不況、GMの破綻という一大アゲンスト状態にある世界の自動車業界にあって、唯一と呼んで良い希望の星がプリウスなのかもしれない。メディア試乗会は、横浜みなとみらいで行われた。


  乗り込んで、最初に気付くのは、メーターパネル内の情報表示がよく整理されて、見やすいことだ。カーナビ画面とメーターパネル内に別れていた旧型プリウスや、うまく整理され切れていないホンダ・インサイトとは大違い。ハイブリッドカーに何が必要で、何が大切なのか、代々作り続けてきたノウハウの蓄積がある。


  しかし、同じトヨタのオーリス譲りの、宙に浮いたようなセンターコンソールがプリウスにも採用されているのは理解できない。使いにくい上に、空間を無駄にしている。おそらく参考にしたのであろうボルボ各車は、もっとうまく作られている。また、旧態依然とした価値観とセンスで設置されているシフトレバーの形状と位置に、必要性が感じられない。せっかくのハイブリッドカーの新しさが、台無しだ。小さなスイッチやボタンであっても機能的には問題ないはずで、“新しさ”を演出できた上に、空間も確保できる。


  走り出して感じるのは、乗り心地のタッチのキメが細かくなったことと、速度を上げた時の安定感も向上したこと。パワートレーンの余裕も生じ、静粛性も高まった。総じて、走りっぷりは向上し、重いバッテリーとモーターを積んでいることを忘れたかのように、軽快に走る。快適性も高まった。


  だが、基本中の基本であるドライビングポジションに疑問を感じた。L、S、Gと3グレードあるうちの最廉価のLグレードに限った話だが、シート高が調整できない。個人差にもよるが、そのポジションは高過ぎで、ハンドルを調整しても、最後まで最適なポジションを定めることができなかった。ポジションが高いので、コーナリング時のロールも大きく感じられるから、このまま長距離を走り続けると疲労も増すはずだ。10・15モード38km/lという値だけでLグレードに決めてしまわないで、必ず、SもしくはGグレードでシート高を調節し試乗してみる必要がある。


  さらに、試乗時のチェックポイントとして、2分割されたリアウインドの見え具合を、ルームミラー越しに確認しておくといいだろう。エアスポイラーが後方視界、特に走行中の後続車を妨げてしまうことがある。個人差もあり、気にならない人もいるかもしれないが、購入後には改造や変更ができないから、よく確認しておくことを勧める。短時間の試乗会では、実際的な燃費値まではテストできなかったが、新型プリウスはハイブリッドカーとしての熟成が進んだことは確かだった。


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モータリングライター 1961年東京生まれ。自動車と自動車にかかわる人間についての雑誌記事や単行本を執筆している。主な著書に、『10年10万キロストーリー』(1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。ここ数年、外国を長距離クルマで走ることが続いている。2003年には、東京からロシア・ウラジオストクを経由してポルトガル・ロカ岬まで自らのトヨタ・カルディナでユーラシア大陸を横断。2006年には、ダイムラー・クライスラーのイベント『パリ~北京』に参加し、ロシア・エカテリンブルクから北京までメルセデスベンツE320CDIで走破。2007年に引き続き、今年も、『トランスシベリア2008』に出場し、総合10位、クラス9位で完走した。
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