
コンセプトカーの段階から、トヨタが世界各国のモーターショーで発表し続けてきた「iQ」が今秋、いよいよ日本とヨーロッパで発売される。
ほぼ生産型に近いプロトタイプに北海道・士別のテストコースで試乗してきた。
iQの一大特徴となっているのは、短く幅広いボディだ。これまで、どこのメーカーのクルマにも見当たらなかったプロポーションを持っている。全長2985ミリと軽自動車よりも短いのに、全幅が1680ミリもある。
ここまで小さなクルマを造った狙いは、都市部での取り回しを良くし、軽く造ることによって燃費を向上させることだ。

実際に、取り回しのひとつの指標となる最小回転半径は3.9メートルしかない。軽自動車のスズキ・ワゴンRが4.1メートル、ダイムラーのスマートが4.2メートル、同じトヨタのヴィッツが4.4メートルというのと較べると、圧倒的に小さい。
また、燃費は10-15モード値が23km/lとほとんどの軽自動車よりも優れている。10-15モードはテストコースでの測定値だが、現実の交通状況下でも、あまり変わらない値を示すはずだと開発陣の自信は揺るぎない。
小さいクルマだと、心配されるのは衝突安全性だ。他のクルマや建築物に衝突した場合に、衝撃を吸収するスペースが小さいので、キャビンにまで及んでしまいそうだが、その面も万全に開発してある。安全性の公共評価基準であるJNCAPで六つ星、ヨーロッパのユーロNCAPでも五つ星を獲得できるそうだ。

トヨタには、グループ企業のダイハツが造る多くの軽自動車や自身のヴィッツやパッソなどがある。省燃費という点では、ハイブリッドのプリウスがある。
それにもかかわらず、なぜ、iQを開発したのか。
「サイズのヒエラルキーを打破したい」
(チーフエンジニアの中嶋裕樹氏)
いままで、日本の自動車メーカーは、ボディサイズ・イコール・価格だった。“軽自動車が一番安く、最も大きなレクサスLSが一番高価”というピラミッド構造を守ってきた。しかし、例えば、子供が独立したカップルのようなユーザーが、“もう大きなクルマは不要。でも、日本車には小さなクルマには安物しかない。小さくても、高品質なクルマが欲しい”とクルマを探している。そうした風潮を、素早くキャッチしたトヨタの意欲作である。志は高く、時代は追い風に入っている。早く、市販版に乗ってみたい。