TOP > Car > Car コンシェルジュ 金子浩久 > マセラティ・グラントゥーリズモS

マセラティ・グラントゥーリズモS


  以前に紹介したマセラティの2ドア4座席GT「グラントゥーリズモ」に、早くも「グラントゥーリズモS」が追加された。 「S」は、バリエーションモデルとは思えないほど、内容が充実している。少しパンチ不足を感じた4.2リッターV8エンジンは4.7リッターに拡大され、35馬力と3kgm増強。440馬力の最高出力を発生するのは7000回転だが、レブリミットはなんと7600回転に設定されている。ちょっと考えられない高回転型だ。


  エンジンだけでなく、「S」の徹底ぶりはトランスミッションにある。なんと、新型6速クラッチレスマニュアルギアボックスを、それも搭載位置を変えて装備してきたのだ。

  グラントゥーリズモがオーソドックスな6速のトルクコンバーター型オートマチックトランスミッションを装備してきたのに対して、 「S」はクラッチレスマニュアルギアボックスをディファレンシャルの直前に設えた。いわゆるトランスアクスル・レイアウトである。



  トランスアクス・レイアウトは、フロントエンジンレイアウトのクルマの前後の重量バランスを均等からややリア偏重に近付け、加速時のトラクション、コーナリングやブレーキング性能などを向上させる。スタンダードのグラントゥーリズモはATをエンジンのすぐ後ろにマウントしているから、「S」はまったく別のクルマと呼んで構わないほど、違ったアプローチが採られている。

  グラントゥーリズモと「S」の外見上の違いはわずかだ。フロントグリルの桟の部分がブラックアウトされ、控え目なサイドスカートを装備し、指でつまんだような形状のリアスポイラー、楕円形を二本出すマフラー断面(スタンダードは丸四本)などが、主だった「S」専用のディティール。



  外見上の「S」の特徴は乏しいが、走り始めると、2台はまったく別のクルマだということがすぐにわかる。柔らかな乗り心地が影を潜め、足腰が引き締まっているのを感じる。トランスアクスル・レイアウトのせいか、重心も下がったようだ。スピードを上げていくと、シャシーとの一体感が現れてくる。やがて、その一体感は、ドライバーにも波及してくる。4.7リッターもありながら、恐ろしく軽々とレッドゾーンにまで届こうとするV8エンジンのレスポンスと咆哮が意識を後押しする。

  指先でパドルを操作して、変速しながら、積極的にドライビングに参加していく喜びが生まれてくる。「S」のパワフルなエンジンも、凝ったトランスミッションも、すべてはドライビングのためにある。「S」は、いま最も旬の辛口ラグジャリーGTだ。

マセラティ・グラントゥーリズモS PHOTO GALLERY
モータリングライター 1961年東京生まれ。自動車と自動車にかかわる人間についての雑誌記事や単行本を執筆している。主な著書に、『10年10万キロストーリー』(1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。ここ数年、外国を長距離クルマで走ることが続いている。2003年には、東京からロシア・ウラジオストクを経由してポルトガル・ロカ岬まで自らのトヨタ・カルディナでユーラシア大陸を横断。2006年には、ダイムラー・クライスラーのイベント『パリ~北京』に参加し、ロシア・エカテリンブルクから北京までメルセデスベンツE320CDIで走破。2007年に引き続き、今年も、『トランスシベリア2008』に出場し、総合10位、クラス9位で完走した。
http://www.kaneko-hirohisa.com/