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着こなしを左右するもの[スーツのフィット感]


  スーツは、人の体にフィットしていなければなりません。着心地は、肩と脇の下からウエストに続く絞りがすべてであり、その他の部分はあまり関係がありません。丁寧で巧みな細工が施されていれば、スーツは自ずと体にまとわりつきます。仕立ての良い服は、人の筋肉や皮膚と同じ働きをするものなのです。人の動きに伴って、自然なシワはあちこちに出ますが、それは美しいシワであり、人が動きを止めれば、うそのように消えてしまう。


  例えばオーケストラの指揮者は、テールコート(燕尾服)を着ていますが、背中にできるシワに注目してみてください。指揮棒を振る彼の背中には、複雑なシワが出ていますが、指揮棒を下ろした途端にすべてのシワがあっという間に、それもいっせいに消滅してしまいます。指揮者は常に背中の観客を意識し、最高のオーダー服を身に着けています。小澤征爾さんやオーケストラの指揮者の後姿を是非、意識してご覧になってみて下さい。私はいつもテールコートの仕立てと背中に走るシワ、そしてもちろん音楽も楽しんでいます。

  洋服が人の皮膚と言われる所以でブリティッシュ・スーツを挙げてみましょう。ブリティッシュ・スーツは、体にフィットしていますが、英国人も中年をすぎると、かなりウエストが出ています。それでもスマートに見えるのは、実はスーツの胸の部分にはボリューム感があり、逆三角のシルエットなのですがウエストにもゆとりを持たせてあり、ルーズフィットになっているためです。かなり太った男性でもこのスーツを着用するとスマートに見えます。

  このようなスーツは芯地の作り方や、芯据え、つまり表地と芯にボリューム感を持たせて縫ってあるのです。この技術は、かなり高度なテクニックが必要で、既製服やイージーオーダーの仕立てでは無理なのです。

  また、最近はアンチエイジングという言葉が流行していますが、仕立ての良いスーツを着ると、実年齢よりも10歳以上若く見えます。「今日は、これから生きていく人生の中で、一番若い日です。そして明日もまた、私の残された人生の中で、一番若い日です。明日もまた若い日です。若い若いという気持ちで頑張っていきましょう」私は毎日、この様に前向きで明るく、若々しいスーツを着て楽しく生きています。是非一度、フィット感のあるスーツを試してみてください。
株式会社神谷ガーメント 代表取締役社長。イギリス サヴィル・ロウのキルガーフレンチ&スタンバリー(現キルガー)でチーフカッターを務め、帰国後、西武百貨店顧問デザイナーを経て、株式会社テーラー神谷(現株式会社神谷ガーメント)の社長に就任。就任後は若い人でもオーダースーツが楽しめる「ニューオーダー」の開始やNHK総合テレビ月曜ドラマ「オーダーメイド」でテーラー指導、衣装製作さらには出演など、精力的に業界の活性に尽力している。
http://www.t-kamiya.co.jp/