
スーツという意味は、正確には「男子服の三つ揃い」ということです。スリーピースは、1860年代に誕生し、当時はラウンジ・スーツと呼ばれていました。ラウンジとは、「のんびり過ごす」という意味です。フォーマル性の高いフロックコートに対して、インフォーマルの服とされていました。その後、フロックコートは礼装用の燕尾服として残り、三つ揃いのスーツが、フォーマルの衣服に格上げされました。
英国の紳士たちは、人前ではシャツ姿をさらしません。上着を脱ぐのは、ベストを身につけている時だけです。ベストがそなえたフォーマル性を知っているからです。スリーピースのベストを取り払い、ツーピースを愛用したのはアメリカ人です。ベストが暑苦しかったからなんでしょうね。そしてベストを取り払った際、シャツの左胸には、それまでなかったポケットを付けました。ベストのポケットに入れるべき物を、シャツのポケットに移し替えるためだったのです。
ベストが他人にフォーマルな印象を与える理由は3つあります。ひとつは上着のボタンを外した時、スーツスタイルを立体的に見せるためです。次に上着のように人体をそのままなぞらず、曲線を多用した複雑な形をしているため、スーツスタイルにメリハリ感がでます。そして衣服を重ねることにより、襟を正す姿勢を明確に他人に伝達できるからです。