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スリーピースの再流行


  スーツという意味は、正確には「男子服の三つ揃い」ということです。スリーピースは、1860年代に誕生し、当時はラウンジ・スーツと呼ばれていました。ラウンジとは、「のんびり過ごす」という意味です。フォーマル性の高いフロックコートに対して、インフォーマルの服とされていました。その後、フロックコートは礼装用の燕尾服として残り、三つ揃いのスーツが、フォーマルの衣服に格上げされました。


  私がロンドン・ザヴィルローのキルガー社に勤務していた頃、スーツのオーダーというのはスリーピースと決まっていました。生地のプライスもウェストコート(ベスト)を含んだもので、一着分が3.5mもありました。当時の日本では、ツーピース一着分の値段で生地は3.0mでした(現在は3.2m)。 

  英国の紳士たちは、人前ではシャツ姿をさらしません。上着を脱ぐのは、ベストを身につけている時だけです。ベストがそなえたフォーマル性を知っているからです。スリーピースのベストを取り払い、ツーピースを愛用したのはアメリカ人です。ベストが暑苦しかったからなんでしょうね。そしてベストを取り払った際、シャツの左胸には、それまでなかったポケットを付けました。ベストのポケットに入れるべき物を、シャツのポケットに移し替えるためだったのです。

  ベストが他人にフォーマルな印象を与える理由は3つあります。ひとつは上着のボタンを外した時、スーツスタイルを立体的に見せるためです。次に上着のように人体をそのままなぞらず、曲線を多用した複雑な形をしているため、スーツスタイルにメリハリ感がでます。そして衣服を重ねることにより、襟を正す姿勢を明確に他人に伝達できるからです。

  スリーピースを着用した時は、まずネクタイに配慮しなければなりません。無地か無地に小紋を散らしたものやストライプのものが最良だと思います。フォーマル性が強い洋服は、それ自体が目立つのです。つまり、スリーピースはネクタイで遊びを表現できないスーツなのです。この秋冬物では再びスリーピースが注目され、流行しそうです。

  最後になりましたが、今回でスーツコンシェルジュとしての掲載を最終回とさせていただきます。一年間ありがとうございました。続きは、テーラー神谷のホームページで私のブログをお楽しみ下さい。
株式会社神谷ガーメント 代表取締役社長。イギリス サヴィル・ロウのキルガーフレンチ&スタンバリー(現キルガー)でチーフカッターを務め、帰国後、西武百貨店顧問デザイナーを経て、株式会社テーラー神谷(現株式会社神谷ガーメント)の社長に就任。就任後は若い人でもオーダースーツが楽しめる「ニューオーダー」の開始やNHK総合テレビ月曜ドラマ「オーダーメイド」でテーラー指導、衣装製作さらには出演など、精力的に業界の活性に尽力している。
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