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小千谷ちぢみで作るジャケット


  蒸し暑い夏がやってきました。日本では、リネン(亜麻・麻の一種)は盛夏素材と考えられていますが、パリやミラノでは、春の終わり頃から9月まで身につけることができる息の長い素材です。イタリアの服地のメーカーのゼニアやロロピアーナは、シーズンごとにリネン素材をたくさん用意しています。メーカーが重量の異なった素材を用意する理由は、より素材のおしゃれを楽しもうという発想によります。


小千谷ちぢみで作るジャケット  リネンの重量は、晩春から初夏および晩夏から初秋にかけて、そして初夏から夏にかけて、また盛夏にかけて着用するという3種類にわけられます。つまり、夏だからリネンを身につけるのではなく、その日の天候や温度、お洒落心によって服装を決定しようというイタリアの自由な気風の表れでもあります。日本でも明治、大正、昭和の初期までは、エアコンが殆んどなかったので、お洒落な男性たちは、ハットをかぶって、生成りの麻の三つ揃えのスーツを粋に着こなしていました。

  しかし、最近では、麻のシワを嫌う人が多く、麻100%のスーツを着ている人を見かけなくなりました。何とかジャケットだけでもシワを隠せる麻の素材はないものかと探しました。そしてついに見つけました。和服ではよく着られている小千谷ちぢみです。天然苧麻(ちょま:カラムシともいう。麻の一種で、布を織ったり、漁網を作ったりする素材)から紡いだ細糸だけを使った雪国小千谷(おぢや)の麻織物です。その緯線(織物の横糸)に強度の撚りをかけ、丹念に織り上げられます。入念に湯もみをすることによって独特のしぼを生じさせて名品「小千谷縮(ちぢみ)」となります。

小千谷ちぢみで作るジャケット  何百年も変わらぬ風合いを持ち続け、そのサラサラとした肌触りと清涼感は、夏の着物として愛用されています。ご存知の様に和服用に仕立てる生地ですので幅が狭く、紳士服の上着用に裁断するのが大変でした。その人の体型にもよりますが、メーター数がかなり必要ですし、型紙をはめ込むのも苦労しました。そして、色はホワイト、ライトブルー、ダークブルー、ベージュ、ライトグレーの無地ものと、白黒や紺のストライプ柄もあります。とりあえず、ホワイトカラーのジャケットをサンプルとして一着作りました。洋服の芯地やテープ、裏地にも気をつかいました。【白ジャケットの画像】

  手前味噌になりますが、でき上がったジャケットは、高級感のある素晴らしい作品です。その証拠にジャケットをディスプレイしたところ、注文がどんどん入ってきました。

  皆さんにも是非、現物をお見せしたいものです。
株式会社神谷ガーメント 代表取締役社長。イギリス サヴィル・ロウのキルガーフレンチ&スタンバリー(現キルガー)でチーフカッターを務め、帰国後、西武百貨店顧問デザイナーを経て、株式会社テーラー神谷(現株式会社神谷ガーメント)の社長に就任。就任後は若い人でもオーダースーツが楽しめる「ニューオーダー」の開始やNHK総合テレビ月曜ドラマ「オーダーメイド」でテーラー指導、衣装製作さらには出演など、精力的に業界の活性に尽力している。
http://www.t-kamiya.co.jp/