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新大陸で生まれた自由で機能的なスーツ [アメリカン・スタイル]


  クラシックなスーツスタイルは、以前お話したブリティッシュ・スタイル、フレンチやイタリアンスタイル、そして、アメリカン・スタイルに分類されています。今回は、アメリカ系スーツのお話をいたしましょう。


  アメリカのスーツは、まずアメリカがヨーロッパの植民地だったことと、たくさんのヨーロッパの移民がアメリカにやってきたことを念頭に入れる必要があります。多くの国の人たちが、多くの服とともにアメリカの地を踏み、それがアメリカのスーツを作りあげたのです。なかでも英国人が、ニューヨーク、マサチューセッツ、ヴァージニアなど主要な地に多数定住したこともあり、アメリカのスーツスタイルは、以降英国がルーツになっています。

  しかし移民で構成されたアメリカ人には、もともと自由な気風が強かったため、英国スタイルの窮屈さを嫌い、19世紀末にはすでに動きやすさと機能性を追求した「サック・コート」が考案されています。特徴は英国スタイルのように肩を角ばらせずナチュラルに、ウエストも絞らずそのままに、さらにスラックスも太めにカットされた文字どおり「大きな袋」のようなスーツです。これをアメリカン・ナチュラル・スタイルといいます。

  そしてもう一つ、アメリカといえばアイビー・スタイルがあります。このアイビー・スタイルは、私の古い友人であった石津謙介氏が、昭和38年に日本に導入したことをきっかけに、ヴァン・ジャケットが、当時の若者の間で一世を風靡しました。アメリカの8大学アイビーリーグの大学生が好んで着用したスタイルで、メタルボタンのブレザースーツやジャケットが大流行し、今でも紺ブレ(紺色のブレザー)は、根強い人気があります。2つボタンや3つボタンで、ウエストは絞らず、センターフックベントが特徴的です。

  デザインは、シングルブレストやダブルブレストもあり、サック・スーツ同様スポーティテイストの強いスーツです。今でも団塊世代の人たちは、3つボタン1つ掛けの段返りのシングルブレストで、0.5ミリのミシンステッチでセンターフックベントのデザインしか着用しないという方もいます。流行に左右されず自分自身のスタイルを持っている人は、大人のおしゃれといえるでしょう。

  まとめとしては、ウエストを絞るか、絞らないかが、英国とアメリカのスーツスタイルにおける大きな相違だといえます。そしてそれが、それぞれの国の風土や国民性によるものだという点が非常に興味深いですね。

  少し余談になりますが、アメリカ人は、英国人に対して、憧れと尊敬の念を持っています。私が初めて、英国からアメリカへ渡った時、クィーンズ・イングリッシュを話しただけで、驚いていました。我々が日本で学んだのは、英語ではなく、米語だということを覚えておいて下さい。これは、戦後、アメリカの影響で、日本の教育もそうなったからです。
株式会社神谷ガーメント 代表取締役社長。イギリス サヴィル・ロウのキルガーフレンチ&スタンバリー(現キルガー)でチーフカッターを務め、帰国後、西武百貨店顧問デザイナーを経て、株式会社テーラー神谷(現株式会社神谷ガーメント)の社長に就任。就任後は若い人でもオーダースーツが楽しめる「ニューオーダー」の開始やNHK総合テレビ月曜ドラマ「オーダーメイド」でテーラー指導、衣装製作さらには出演など、精力的に業界の活性に尽力している。
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