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自分だけの一着を作る[ビスポークテーラーの魅力について]


  ビスポークというのは、注文の、あつらえの、という意味で、つまりビスポークテーラーとは、注文に応じて作る洋服屋という意味です。実は、もっと詳しく言いますと<BE-SPOKE>、人が前もって求める、つまり一人一人に合わせて、対面販売をするテーラー、という意味を表しています。今回は、オーダースーツを作る楽しみと、ビスポークテーラーの魅力についてご紹介します。


  一着のスーツを作る際、まず注文する側は自分の要望を全てテーラーに伝え、そしてテーラーは今風のファッションなどについてアドバイスをするのですが、初めてオーダーしますと、30分から1時間位、じっくりと時間をかけてお話をします。そして、テーラーはその人の職業、趣味、特技などを聞き出し、その人の品格に合わせたスーツを提案します。世界の一流品が揃った、たくさんの生地の中から気に入った生地を決めた後、細かく採寸し、そしてまた対話を繰り返しながら好みのデザインを決定していきます。

  その後、型紙を作成し、その型紙を生地の上に載せてチャコを引いてから生地を裁断します。1回目の仮縫い(フィッティング)の後、その仮縫いをほどいて補正をします。それから、2回目の中仮縫いをします。2回目の中仮縫いは、背縫い線や前ダーツ、脇ポケットはすべて縫ってあります。

注文から出来上がりまで、約1ヶ月から1ヶ月半。英国では、2ヶ月から3ヶ月かかります。まるで、画家が一枚の絵を描く様に、そして陶芸家が心を込めて1つの壷を作りあげるように、世界でたった一着のスーツの芸術品を作るのです。

これが、ビスポークテーラーです。どうですか、皆さん。昔の車の宣伝文句ではありませんが、「いつかはビスポークテーラーを・・・」という気持ちがお分かりいただけたでしょうか。

  英国人は、1着のスーツを10年も15年も着用します。当然、糸のほつれや生地のすり切れがありますし、自分自身の体型が変わる場合もあります。それでも何度も修理して大切に着用します。和服ではありませんが、息子さんや孫の方に仕立て直しをする人もいます。

例えば私の店では、親子三世代、お世話になっている顧客様がたくさんいます。仕立て直しは、あまり商売にならないかも知れませんが、それが職人根性であり、顧客様が「色々お世話になりありがとう」と言って下さると、このビスポークテーラーをしていて本当に良かったと思うのです。
株式会社神谷ガーメント 代表取締役社長。イギリス サヴィル・ロウのキルガーフレンチ&スタンバリー(現キルガー)でチーフカッターを務め、帰国後、西武百貨店顧問デザイナーを経て、株式会社テーラー神谷(現株式会社神谷ガーメント)の社長に就任。就任後は若い人でもオーダースーツが楽しめる「ニューオーダー」の開始やNHK総合テレビ月曜ドラマ「オーダーメイド」でテーラー指導、衣装製作さらには出演など、精力的に業界の活性に尽力している。
http://www.t-kamiya.co.jp/