スーツ・スタイルは現在、ブランド、メーカー、デザイナーの名前がつけられ、たくさんのスタイルがあるように考えがちですが、実はクラシックなスーツスタイルは、3つに分けられます。ブリティッシュ・スタイルとコンチネンタル・スタイル(イタリアンやフレンチ・スタイル)、そしてアメリカン・スタイルです。そして、スーツはT・P・O、つまり「TIME」、「PLACE」、「OCCASION」、時間と場所と行事を使い分けて、着こなしをするということです。スーツの用途として、社交にはクラシック・スーツ、ビジネスにはビジネス・スーツ、そして街着(タウンウェアー)には、カジュアルスーツの着用に分けられますが、現在では、準礼装としても身につけることが出来ます。英国式フォーマルウェアーについては、また改めて詳しく説明させていただきます。
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イギリス サヴィル・ロウのキルガーフレンチ&スタンバリー時代の写真 中央はルイ・スタンバレー社長。 |
それでは、ブリティッシュ・スタイルの特長を説明します。このスーツは私が最も得意とする分野で、ロンドンのサヴィル・ロウのキルガーフレンチ&スタンバリー(現在は、キルガー社)というところで、チーフカッターとして勤務しました。ちなみに、サヴィル・ロウは、ハンツマン、ヘンリープール、ギブスアンドフォークスなど一流テーラーが集まっている通りで、日本の背広(セビロ)は、この地名、サヴィル・ロウからとったものとされています。
肩はナチョラル・ショルダーで胸のボリュームがあり、ウェストはしぼってあります。ウェストラインはルーズフィットで、着用してみるとゆったりしているんですが、スーツ自体は非常にスリムになっています。これは、オールハンドメイドの特長です。既製服やイージーオーダーのマシンメイドとの違いははっきりしていて、このラインはできません。
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フルネス(いせ量)を適度に取ることで、曲線的で着心地の良い肩のラインが出来上がる。 | 一針一針に丁寧な仕事が施された八刺。文字通り八の字が整然と並ぶ。 |
また、肩のラインはフルネス(いせ量※1)が、生地によって1.5cmから2.5cmあり、非常に前肩※2になっています。そして、カラーとピッタリフィットして、電車に乗って吊り革につかまったり、ダンスをして両腕をあげてもスーツ全体でうかずに肩にぴったり吸いついています。またラペルの芯地には、手縫いで八刺(はざし)がしてありますので、10年以上着用しても、ラペルが前にそり返ってくることはなく、いつまでもピシッとしたきれいな美しいラペルを維持できる訳です。八刺は、八(8の字)を書く様に縫うので、八刺と言います。細かな技術の積み重ねが、着易く美しいスーツを生み出すんですね。
次回はオーダースーツの醍醐味、ビスポークの魅力についてお伝えしようと思います。