『BLACK MARKET』である。この言葉、実に言い得て妙である。
「何でもかんでも売っている」といったニュアンスを含んでいるのだが、響き的には怪しげな魅力に満ちた言葉である。私がこの言葉を見て、真っ先に思い出すのはウエザー・リポートであり、ジャコ・パストリアスである。JAZZであり、FUSIONであり、というジャンル分けを個人的にはしたくない音であって、究極の演奏力、構成力全てにおいて非常に優れたアルバム(BLACK MARKETというアルバムを知らない方は検索を)を生んだ方々である。ジャコのベース音に最初に触れた瞬間、何がなんだか解らない気持ちになったものだ。実験もスピリットも含め全てが詰まったアルバムであり、まさに『BLACK MARKET』そのものであった。音楽には様々なイメージや新たな感情を喚起させる効果があると思うのだが、音楽には欠かせない要素としての表現が必要であり、音楽から生まれる別の表現も存在する。密接な関係というよりは最終形が異なるだけで、刺激しあいながら、摩耗しながら生まれてくるものを、我々は幸運にも接する事ができる。「何でもかんでも――」というのは解釈のしようでは、こういった刺激的なものが生まれる計算外の瞬間の場、なのかもしれない。
私が本気で音と戯れるようになったのは80年代の頃だが、同じ時代を過ごし、早くから活躍をしていたアーティストが若野桂(Katsura Moshino)です。その頃から、彼の周りではDJやバンドをする者が多数いたようで、その中で自分の役割に気付いたのだと言います。
海外の音楽が好きで、そのジャケットを制作することを夢に描きながら彼の試行錯誤は続きます。この時期、私も記憶しているのですが、マッキントッシュ(apple)の登場でクリエイティヴ業務がグッと身近になる時代にシフトし始めましたが、なんせ高額でしたし、設備が整っている環境を確保するのが大変でした。彼は印刷会社やCG制作会社で技術を習得しながら、印刷物と自分の理想形を追求し続けました。現在はメモリーもギガ単位ですし、プリンターの性能も印刷物と変わらないレベルまで達しています。なんせ当時は4〜5メガが最高だったり、プリンターの再現性も全くと言っていいほどだったりしたので、その逆境をどうプラスのクリエイティヴに変換できるのかの連続だったようです。自らの発見を追求した結果、生み出されたイラストレーションにCGをミックスした手法で徐々に頭角を現すことができたのです。その手法で描かれた作品は彼の周りにいたDJやミュージシャンのフライヤー、MIX Tape等で世間に出回ることになります。
90年代のクラブカルチャー(シブヤ系等が有名ですが)はファッション的要素が強かったので、ヴィジュアルが与える影響力もかなりのものでした。音楽の影響力も強かったこの時代に、全ての力がブームとして猛威を振るったのは、現在の10〜20代の方には記憶にないのかもしれませんが、土台はこの頃作られたのです。CDジャケットの仕事も海外のNIKEのバスケットボールキャンペーンに突如抜擢されたことも、彼のデジタルへの実験の賜物であり、最終的にはこのキャンペーンが(日本でもCMとして流れましたね)彼の知名度を逆輸入的に日本で広めたと言っても過言ではありません。
BLACK MARKET / Katsura Moshino solo exhibition
若野桂 個展『BLACK MARKET』
会期 11月21日(金)〜12月3日(水) *木曜定休
時間 11:00〜20:00 最終日のみ18:00まで
会場 Gallery Speak For(代官山)
住所 東京都渋谷区猿楽町28-2 SPEAK FOR B1F
URL
http://www.galleryspeakfor.com/
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