この糸を手繰り寄せるか否か、それも生きているというアクセントになる。正解はないが、自己鍛錬として向き合う必要があるだろう。数年前、大阪の児玉画廊で展示を見た作家が伊藤存であり、たまたま友人が知り合いだったということでまさに繋がった出来事。この時、私は別の作家を大阪で展示を企んであちこち会場を視察していただけであった。
前日見に行った展示会場へ再び友人に案内され会場に着くと、そこは撤収の最中で、1人の男性が作品を丁寧に丸めていたのだが、それが伊藤氏であった。ご挨拶をして、連絡先を交換し、軽くお話しした程度であるが、気持ちの良い方であった(その節は撤収中なのに失礼しました)。その後は一方的に東京の展示「NEW TOWNのスペース」「bi-bi-X」等に時間を見つけては堪能していたのであるが、自己鍛錬を失敗した私は勝手な行動ばかりであった。
久々にご挨拶でもしたいものだと思っていたところ、「四月パカ/April Pool」という個展の案内を頂いた。やはり、4月は動き出す、ということか。
刺繍という方法をメインに活動を続ける伊藤氏であるが、私は彼のドローイングとしての糸の「在り方」がとても好きである。自然に存在する木々や動物、風景から昆虫、魚に至るまで大小関係なく彼が無理なく、心から無心になれる対象物を選んでいるという部分、生活上で目にできる「カタチ」を忠実に再現しようとする反面、見えないであろう存在までも存在し得る「カタチ」として見えざるまま落とし込んでいる部分、全ての存在は全てアウトラインでしかなく、しかし本当の存在は光や音や瞬時の繰り返しによって存在しているのではないかと思わせる神秘的な点線等、とても考察に優れた作品が多い。