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連鎖の軌跡 伊藤存


  4月、桜も咲き始め、散り始め、もしくは蕾が開くのを心待ちにしている地域も多いことだろう。この時期は花見ということになっているが、決してなっているわけではない。DNAに取り込まれているに違いないのだが、なっていない。日本では色々な状況において、新しいスタートを祝う意味でもこの時期の宴は重要になっているようだ。花は素晴らしい。そして花は美しいものである。スタートを切って歩き始めた方々も美しい。やはり、そこは願掛け同様、気持ちよく送り出す側の純粋な優しさとして理解するべきなのか。こんな状況なので、様々な熱が交差するのもこの時期である。慌ただしい反面、暖かさからか動きが緩くなるという反作用がからだに起こる。厳しくも緩い、ジキルとハイドのような時期をスタートラインに決めたのは、人間が自己を鍛錬するべくあえて選んだのではないか、という考察は、私の勝手な妄想である。

  新たに出会う方々との関係を築いていくのは重要であり、出会う方々というのは、実はかなりの確率で会うべくして会った方なのだということを、生活している日常では忘れがちである。運命の赤い糸という言葉もあながち嘘ではない。

   


  この糸を手繰り寄せるか否か、それも生きているというアクセントになる。正解はないが、自己鍛錬として向き合う必要があるだろう。数年前、大阪の児玉画廊で展示を見た作家が伊藤存であり、たまたま友人が知り合いだったということでまさに繋がった出来事。この時、私は別の作家を大阪で展示を企んであちこち会場を視察していただけであった。

  前日見に行った展示会場へ再び友人に案内され会場に着くと、そこは撤収の最中で、1人の男性が作品を丁寧に丸めていたのだが、それが伊藤氏であった。ご挨拶をして、連絡先を交換し、軽くお話しした程度であるが、気持ちの良い方であった(その節は撤収中なのに失礼しました)。その後は一方的に東京の展示「NEW TOWNのスペース」「bi-bi-X」等に時間を見つけては堪能していたのであるが、自己鍛錬を失敗した私は勝手な行動ばかりであった。

久々にご挨拶でもしたいものだと思っていたところ、「四月パカ/April Pool」という個展の案内を頂いた。やはり、4月は動き出す、ということか。

  刺繍という方法をメインに活動を続ける伊藤氏であるが、私は彼のドローイングとしての糸の「在り方」がとても好きである。自然に存在する木々や動物、風景から昆虫、魚に至るまで大小関係なく彼が無理なく、心から無心になれる対象物を選んでいるという部分、生活上で目にできる「カタチ」を忠実に再現しようとする反面、見えないであろう存在までも存在し得る「カタチ」として見えざるまま落とし込んでいる部分、全ての存在は全てアウトラインでしかなく、しかし本当の存在は光や音や瞬時の繰り返しによって存在しているのではないかと思わせる神秘的な点線等、とても考察に優れた作品が多い。

 

 

 

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伊藤存「四月パカ」
Zon Ito April Pool
会場 Taka Ishii Gallery(タカ・イシイギャラリー)
http://www.takaishiigallery.com/
日程 2009年4月11日(土)~5月16日(土)
*日、月、祝祭日は休廊
5月3~6日はゴールデンウィークのため休廊
Agent&Creative company 代表取締役兼プロデューサー。新しい才能に目を向け、プロデュースからディレクションを業務とする。ギャラリーとは異なり展示施設を持たず、人に力を注ぐ業務展開を行い、様々な才能を輩出。作家マネジメント及びプロデュースを手掛けながら、付随する業務を全てこなす。その他に、制作部門を独立させ<diffusion.>の代表も兼任。商業施設、広告等のアートディレクション、デザインも受注し、制作物のプロデュース、プランニングまで手掛ける。 http://www.philspace.com/