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素晴らしき日常 Ari Marcopoulos(アリ・マルコポロス)


  私が個人的に好きな写真集の1つ『Even The President Of The United States Sometimes Has Got To Stand Naked.』のフォトグラファー、Ari Marcopoulos(アリ・マルコポロス)。この写真集は自分の家族とその周りに存在する風景や出来事の断片で構成されており、その写真から浮き上がるストーリーや感情のバランスがとても素晴らしく、たまに事務所でパラパラしたりする定番アイテムになっている。911テロ以降のアメリカを背景に感じながら、何も考えずに目で追う。

そんな時間が貴重な気分転換。

  彼の仕事として一般的に知られているのは、やはりビースティー・ボーイズのフォトブック 『Pass the Mic: "Beastie Boys"1991-1996』なんだろうか。もしくはブランドSUPREMEの店内が写真で埋め尽くされたことも記憶に残っているのだが、その頃は、日本はいわゆるストリート全盛の時代。どうしてもその印象が強いのかもしれない。個人的興味の入り口はNieves(スイスのインディペンデントな出版社)で発表された作品集に見られるドキュメンタリズム満載、かつスタイリッシュな写真。それも被写体が“誰”ではなく、プリントそのものへの興味とでも言おうか。

  彼は10代でアンディ・ウォーホルが創作活動を行ってきたアトリエ、FACTORY(ファクトリー)に参加していた。 その後フォトグラファーとして独立した後に、ジャン=ミシェル・バスキア、ロバート・メイプルソープ、ロイ・リキテンシュタイン等アーティストのポートレイトを撮影していたそうだ。

  80年代後半よりスノーボーダーたちをドキュメントした作品集を出版したり、ニューヨークを始めとした世界各国で写真展を開催したり。さきほども書いたように、私は家族を撮影した作品がとても好きで、数年前都内で行われた作品展(小さい規模でしたが)を見に行き、即確信したのを思い出す。全体的に思うことは、アクティヴな被写体だろうが、ミュージシャンであろうが、家族であろうが、風景だろうが、そこに存在するのは静かな瞬間である。 追われている被写体が、追われていることさえ気にならない静寂である。

  今回、久しぶりの展示がGALLERY WHITE ROOM TOKYOで開催され、オープニングにも顔を出した。 Dashwood Booksから出版された展覧会と同タイトルの作品集『THE CHANCE IS HIGHER』もそうであるが、一貫して静的な印象だった。家族の成長も窺い知れる作品もあり、常に周りの環境に感謝をしつつ、その支えを記録ではなく作品として残しているスタイルに郷愁的な気分にも似たものを感じた。人間の生き様の美学とでも言おうか。どこを取っても絵になる生き方というものは、意識をするものではなく、生きていれば良い。それが日常を生む。

 

 


  手法として紙焼きした写真を一度ゼロックス(フォトコピー機)でコピーしたものをデータ化し、サイズや光のコントラストを変えて出力した作品は、その時の記憶を遡る。そんなローファイなテクニックはデザインの際にも使われるが、とても効果的に使われている。決してテクニックとしての見せ方ではなく、必要性を感じる。

  自分の周りはこんなにドラマティックで、落ち着ける“場所”がある、という自伝的作品。

  私には“日常”を楽しみ、周りに感謝をしなさいという優しい助言のように感じた。

 

 

アリ・マルコポロス“The Chance Is Higher”
会場:GALLERY WHITE ROOM TOKYO
住所:東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE3F
期間: 2008年6月13日(金)〜 8月25日(月)
http://www.g-whiteroom.com
Agent&Creative company 代表取締役兼プロデューサー。新しい才能に目を向け、プロデュースからディレクションを業務とする。ギャラリーとは異なり展示施設を持たず、人に力を注ぐ業務展開を行い、様々な才能を輩出。作家マネジメント及びプロデュースを手掛けながら、付随する業務を全てこなす。その他に、制作部門を独立させ<diffusion.>の代表も兼任。商業施設、広告等のアートディレクション、デザインも受注し、制作物のプロデュース、プランニングまで手掛ける。 http://www.philspace.com/