複雑さに裏打ちされたシンプルな作風。これは軽く見ただけではまったく解らない部分であり、表向きの模倣は一見容易な気もします。しかし彼のテイストは今現在でも裏側の進化は続いており、ゴールがない道を表向き何も変わらないようなフリをして進んでいることでしょう。彼がイラストレーターという肩書きで活動をしていない理由――それは他のイラストレーターより早く活躍したからではなく、似たような表現をする人間が増えたからでもない。たくさんの偉大な音楽家たちが、どれほど実験的アプローチを繰り返して1曲を作り出しているかを知っているからであり、そのクリエイティヴの源がまた音楽であり、美術であり、生き様であることを見てきたからなのです。

そして、そのリスペクトすべき“作品”を生み出した方々がアーティストと名乗ることができ、その道が苦しく、逸脱することがあったとしても、彼はアーティストという肩書きと闘い続けなければなりません。ビジネスとアーティストのバランスに悩みながら、先駆者としてのプライドを抱えながら、新たな展開が期待される時期が近づいている、そんな気がしてならないのです。
この時期に、あえて若野桂の軌跡を見る機会に恵まれたのだが、驚いたことに7年半ぶりの東京での展示だという。たった2週間で完結する個展だが、2008年の締めくくりとしてご覧頂くことは今後のグラフィック世代にとっても、重要な要素を垣間見ることができるだろう。作品と触れあうことで、新たな発見が繰り返し起こることを想像します。なんせ『BLACK MARKET』ですから。

BLACK MARKET / Katsura Moshino solo exhibition
若野桂 個展『BLACK MARKET』
会期 11月21日(金)〜12月3日(水) *木曜定休
時間 11:00〜20:00 最終日のみ18:00まで
会場 Gallery Speak For(代官山)
住所 東京都渋谷区猿楽町28-2 SPEAK FOR B1F
URL
http://www.galleryspeakfor.com/
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