
その当時のクラブでライブペインティングやVJをしながら現場で吸収した感覚を作品としてカタチにし続けることは、ミュージシャンが現場のオーディエンスを前に鍛え上げられることに等しい経験であり、私はその当時はオーディエンス側としてその空気に触れていましたので、何か新しい事が生まれる予感を感じておりました。マッキントッシュのスペックもかなりのスピードで、進化することでいわゆるグラフィックムーブメントがこの頃は盛んになってきており、道具としての秀逸さからか、様々なイラストレーターやグラフィックデザイナーが誕生し始めていたのです。
彼の実験的活動は技術の進歩により容易にはなったのですが、経験値やモチーフの選び方等、エンタテインメント性が極めて高かったことが彼を成功へと導いた結果だったのだと思います。計算だったのかどうかは解りませんが、CG的要素をいち早く組み合わせたことで、立体的にも動画的にも変換が容易だったのだろう(もちろん、作業は容易ではありません)と想像します。
彼の仕事として、SONYのAIBO(アイボ)第3世代(2001年発売の犬型ロボット)が有名ですが、こういった立体での成功例がその証拠かと思います。家電のプロダクトデザインやインテリアのデザインも、CGの経験が遺憾なく発揮されたものであり、彼の描くモチーフ全てが立体を前提とした上で描かれていることは意外と知られていない事実かもしれません。映像においても、1枚絵として制作したものを複数描くことによって動画として成立させるという当たり前のことを経験値で実践していたにすぎないのであり、全てにおいて、革新的且つ奇抜なものを提案してきたのではなく、彼のテイストをそのまま具現化したものだったと、当時は気付かなかったのではないでしょうか。ただ、ここが最大のポイントであり、彼のこだわりなのかもしれません。余計な情報を排除し、解りやすく見せることで、そのこだわり部分すら一切裏側にまわしてしまうという表現。言い過ぎかもしれませんが、ジェフ・クーンズの作品のPOPさには見た者を取っつきやすくする作用がありますが、内に秘めたストーリーは全く違うところに存在していたりします。スタンスも作風も異なりますが、何か共通した部分を感じます。

BLACK MARKET / Katsura Moshino solo exhibition
若野桂 個展『BLACK MARKET』
会期 11月21日(金)〜12月3日(水) *木曜定休
時間 11:00〜20:00 最終日のみ18:00まで
会場 Gallery Speak For(代官山)
住所 東京都渋谷区猿楽町28-2 SPEAK FOR B1F
URL
http://www.galleryspeakfor.com/
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