表現に関わる仕事を始めてから、自分は作業はしない人間だと、どこかで思いこんでいる部分があるのですが、仕事上アートディレクションもします。ただ、作業はやはりディレクションというスタンスで信頼できる面々にお願いしています。なぜそんな話をしたかと言えば、今回ご紹介する女性アーティストの履歴が、羨ましく思えたからです。
現在ウィーン在住のエリザベス・コップフは、生計を立てるためにタクシー運転手として働きながら、大学で心理学や歴史、哲学を学びます。その後出産を機に創造の素晴らしさに魅了されます。子供を産む、それが自らの意識的経験であり、創造意欲の原点なのだ。女性の儚さも強さも、この出産という経験をなし得ない男性には語る資格はないのだが、ここから独学で写真やグラフィックを手掛けることを始め、自身のコンセプトによって、社会に対してメッセージを発信しているその行動には、嫉妬すら感じる。それは社会に対してのバッシングではなく、全てが愛情に満ち溢れているからだ。なかなか出来ることではない。
ACTION DESIGNと題された彼女の表現は、ヴィジュアル・コミュニケーションを通して提示される。そもそもデザインとは、情報の伝達を正確に行う手段であり、人と人を繋ぐ役目を担っていなければならない。制作者個人の意図など存在してはならないものである。広告という仕事の場合は尚更である。しかし、彼女は、その全てを自己表現として落とし込む。
私が見た「エア・シガレット」という彼女のプロジェクト(作品)。それは煙草を愛していた彼女に襲いかかる世界規模の喫煙規制に対する対処法であった。煙草と同じサイズに切った1枚の紙を巻いて、ただただ空気を吸う、という行為。これが効果的だと感じた彼女は、その紙をデザインし、そこに愛情溢れるメッセージやストーリーを施し、発表した。禁煙対処法としての発表だけでなく、あくまでフォーマット。ここに彼女はスポンサーを付けて(ロゴを入れたり)、そのスポンサーの伝えたい情報を落とし込んで、新聞折り込みとして、大量に配布するという広告的方法論を逆手に取ったような作品発表をし、話題となった。
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数々の国々で発表したこの作品で、喫煙に使用するお金を赤十字に寄付をすることを呼びかけた。そのせいか、彼女の手掛ける作品には「応急処置」の紹介イラストが組み込まれているものが多い。デザインはして欲しいが、このイラストはいらないなあ、というクライアントは必然的に寄付が要請される。これが、アート本来の役割であり、このような作品が、権力とは無縁の絶対的な力なのだと心から思う。
全ては綿密に裏打ちされたコンセプトであり、彼女個人の哲学。ただそこには、とても温かな愛情がポジティブに存在している。生きていくことが、創造を発している。そして全ての作業を自分でこなす。
そこが冒頭の「羨ましい」の、理由である。
巻き込まれていく。その感覚に身を委ねていたいと思えた時、笑いながら前に進んでいける。その時はじめて、我々の直感は「正しかった」と思えるのだろう。エリザベス・コップフの直感は、世界の様々な問題を解決に導く機会を、与え続けているのかもしれません。
「チャイナ・シック」(2002年)
中国のデザイン誌 『Lighter』に掲載された作品。
エア°シガレットのプロジェクトの作品として20本入りのパッケージも含む。
「ロングライフ・エア°シガレット」(2004年)
広東省深川水墨画ビエンナーレに出展した作品。『中国3億5千万人の喫煙者に長寿を』
のメッセージのもと、1本ずつ墨に浸して4メートルを越える1本の線を表現。
「リトル・オーケストラ」
ウィーン・アート・オーケストラ20周年記念のために制作された30枚の手製CDケースによるスペシャルパッケージ。ハーモニカの原理を利用した「楽器」としての機能を持つ。