TOP > Culture > 自宅で体感できる、アートギャラリー > 濃度_濱口健


  画力の凄み。見て、感じる事は出来るが、生み出すのは容易ではない。

  私が20代を終えようとしている頃に濱口くんとは出会ったのだが、その頃から現在の凄みは備わっていた。というか完成していた。とにかく巧い。写実主義と一見思われがちであるが、それは違う。一貫した濱口健のみが存在している。そして、濃すぎるのだ。

  発展途上国として、様々な成長や挫折を繰り返してきた日本。その日本が、異国の文化や生活様式を取り入れる過程で生み落としてきた数々のメイドインジャパン。昭和という時代は、リアルに体験できた時代として、私には象徴的であるが、そのスピードは尋常ではなかった。大学紛争や汚職事件も、なにやらお祭りのようにすら感じた時代。一般常識を打ち破ることだけで輝かしい気持ちになれたのも、ある種平和だったからであろう。そこに混沌と存在するざっくりとしたカタマリ。間違った解釈だったり、もうその域を越えた意味不明なものだったり。ただ、そこには笑いも痛みも見え隠れする葛藤だけが勲章として輝いていた。昭和に放たれた活動はとても日本的で、怪しい光を放っていた歌舞伎町のように魅惑的なのだ。



  彼の絵は、まさに昭和そのものであり、ぎゅっと濃縮した大きな勘違いである。その大きな勘違いを、理解した上で「くくくっ」と笑い、切り取って、貼り付ける。ヤクザ、宗教、風俗、ファッション、音楽、ゴシップ全てを貼り付ける。コラージュの重なりが、風化して残った後、さらに切り取って、この段階で初めて着色、描写するような時間を感じる。そう、歴史絵のようだ。短くも濃い、そんな歴史絵だ。描かれるモチーフの過去を感じさせる歴史絵だ。とはいえ、濱口本人はただ描いているだけなのかもしれないが。

  淡々と絵を描いてきた。動かず、騒がず、顔色も窺わず、自分の興味の範疇を変えることなくしっかりした軸を強化していった。没頭である。時代に乗るのではなく、引いた目線での没頭である。その濃度で描くどの作品にも凄みが備わっているのは、日本人としてのバランス感覚を、どんな構図であれ多用しているからであろう。画力のみならず、構成力もずば抜けている。

  久しぶりに案内をもらった内容が初個展であり、週末しか見られないという。これまた何やら意味深な展開だなあ、と思っていたのだが、いきなり今回の全作品(100点)が高橋コレクション(展示会場)の一部として所蔵されたそうだ。心から拍手を送りたい。そして本音を言えば、作品1つでも良いから購入したかった。

  この初個展の展示はじっと空間を見ていると、経文のみが浮かんでくるような錯覚に陥る。モチーフのチョイスも素晴らしいが、その経文、爆音で鳴っているかのようだ。“静”、ではなく、“爆音”である。それが濱口くんには相応しい。

 

 

     
            『黒、経文、その他』展示
  濱口健 展
「黒、経文、その他」 "BLACK, SUTRA, AND THE REST"

会期:2008年5月17日(土)〜7月26日(土)
時間:11:00〜19:00(祝祭日は休み) ※オープンは土曜日のみとなります。

会場:高橋コレクション(神楽坂)
〒162-0812 東京都新宿区西五軒町3-7 ミナト第3ビル3F
http://www.takahashi-collection.com/

写真:谷本夏
Agent&Creative company 代表取締役兼プロデューサー。新しい才能に目を向け、プロデュースからディレクションを業務とする。ギャラリーとは異なり展示施設を持たず、人に力を注ぐ業務展開を行い、様々な才能を輩出。作家マネジメント及びプロデュースを手掛けながら、付随する業務を全てこなす。その他に、制作部門を独立させ<diffusion.>の代表も兼任。商業施設、広告等のアートディレクション、デザインも受注し、制作物のプロデュース、プランニングまで手掛ける。 http://www.philspace.com/