先日、六本木の有名な超高級マンションに住む友人を訪ねた時、地下駐車場に停まっているクルマを見て、ビックリした。メルセデスベンツやBMWが多いのは予想していたが、アストンマーティンの多さには意表を突かれた。フェラーリやポルシェなど、高級スポーツカーの常連たちも、もちろん多く並んでいたが、メーカーの規模や生産台数などを勘案すると、あり得ないほどの台数がロットに収まっていた。改めて思い返してみれば、昨年に生産を終了した「ヴァンキッシュ」 以降の新生アストンマーティン各車は、東京の富裕なスポーツカー好きの心をグッと掴んでいたのだ。ここの駐車場以外でも、実に多くのアストンマーティンを見掛けるようになった。
その中でも、まだその姿を見掛けない最新作が、V8ヴァンテージ・ロードスターだ。よく眼にすることのあるV8ヴァンテージのオープン版である。南フランス・プロヴァンスのゴブト周辺のワインディングロードを走り回った印象をお伝えしたい。
V8ヴァンテージ・ロードスターは、素晴らしい仕上がりだった。特に、柔らかくフラットな乗り心地を維持しながら、俊敏な身のこなしはスポーツカーそのものだ。このロードスターから選べるようになったパドル付き2ペダル式MTもスムーズで、ドライビングの喜びを拡大してくれる。価格的にも、内容的にもポルシェ911のライバルだが、パフォーマンスでは甲乙付け難く、内外デザインの趣きと味わい深さでは勝っている。乗り心地や使い勝手など、911よりはやや辛口かなと思わせるところもあるが、そこがポルシェやフェラーリを乗り継いできたファンからの、乗り換えの理由のひとつなのだろう。
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「会社の持ち主は変わりましたが、クルマ作りは何も変わりません」
V8ヴァンテージ・ロードスターの国際試乗会に、CEOであるウルリッヒ・ベッツはやって来て、自信たっぷりにスピーチしていた。アストンマーティンは、2007年、フォードの傘下から離れ、新しいオーナーのもとに組み込まれたのだ。オーナーは、バーレーンの投資会社とアメリカのアストンマーティン・コレクターである銀行家、ルマン24時間レースでアストンマーティンを走らせているレーシングチームの代表らが連合して買い取った。熱烈な信奉者を持つクルマは、M&Aなどに飲み込まれることなく存在し続ける。アストンマーティンは、その最上の見本だろう。