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夜のフォーマルウエア【タキシード】


  前回に引き続き、夜のフォーマルウエアについて紹介します。イブニングコート(燕尾服)は《ホワイトタイ》と呼ばれる夜間の正礼服です。アメリカン・イングリッシュではテールコートとも呼ばれます。


  イブニングコートは、ピークドラペル(剣衿)で拝絹(はいけん)付き。ダブル前のボタン位置に飾りボタンを付け、前身頃(まえみごろ)の丈はウエストまでです。このウエストの両側からテールが膝の後部に向かって垂れ下がり、スラックスには側章が二本、裾はシングルで、サスペンダーで吊ります。ウエストコート(ベスト)は白のピケ、シャツはウィングカラーのフォーマルシャツ、ネクタイはホワイトタイの呼び名の通り、白ピケのボウタイ(蝶タイ)を合わせます。スタッド(取り外しのできる留めボタン)とカフスボタンは白蝶貝などの白いもの、ポケットチーフは白のシルクかリネン。シューズは夜の正装なので黒のエナメル(プレーントウのパンプス)、ソックスは黒無地のシルクを選びましょう。手袋は白、またはグレーの鹿皮が良いですね。

  イブニングコートは、宮中晩餐会、国家的な式典や祝典、クラシック音楽の演奏会の指揮者、舞踏会などに着用されています。また最近、クラシック志向の波にのって、花婿の結婚式衣装やアダルト・シニア層にも人気があります。

  実は、平成16年11月にNHK総合テレビ月曜ドラマシリーズ『オーダーメイド~幸せ色の紳士服店~』というタイトルで、私がテーラー指導をさせていただきました。出演者の衣装製作のすべてを手掛け、撮影では、テーラー神谷本店の店内シーンや、私自身が出演するシーンもありました。そのテレビ番組で、イブニングコートを最初から作り上げました。このドラマは、毎週月曜日の午後9時15分~10時に5週連続で放送されたので、ご覧になった方も多いかと思いますが、そのイブニングコートを着用した俳優さんは市村正親氏でした。私は帝国劇場の楽屋まで仮縫いのため、彼に会いに行きました。彼は人格もすばらしく、着こなしもカッコいい俳優さんでした。そして一ヵ月後には、そのイブニングコートが出来上がり、あまりにも体にフィットして、仕立てが素晴らしいので、舞台のフィナーレで着用したいとおっしゃっていました。

  また明治村の帝国ホテルで撮影するシーンでは、私もイブニングコートを着用して出演しました。このとき、日本の洋服屋さんでイブニングコートを持っている方を集めて下さい、と依頼されましたが、イブニングコートを持っているのは、私と私の父だけでした。日本全国の中で、オーダーメイドのイブニングコートを持っている人は、何名いるのでしょうか。一度アンケートをとってみたいですね。それと、本格的なイブニングコートを縫製できる職人さんも段々といなくなるかもしれません。皆さんも是非、燕尾服を着て舞踏会に参加していただきたいものです。
株式会社神谷ガーメント 代表取締役社長。イギリス サヴィル・ロウのキルガーフレンチ&スタンバリー(現キルガー)でチーフカッターを務め、帰国後、西武百貨店顧問デザイナーを経て、株式会社テーラー神谷(現株式会社神谷ガーメント)の社長に就任。就任後は若い人でもオーダースーツが楽しめる「ニューオーダー」の開始やNHK総合テレビ月曜ドラマ「オーダーメイド」でテーラー指導、衣装製作さらには出演など、精力的に業界の活性に尽力している。
http://www.t-kamiya.co.jp/