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靴を作るために生まれたような人に出会った

 五宝賢太郎さん、生まれは四国の徳島県。プロダクトデザイン、人間工学を勉強したくて大学は茨城大学へ。ここで靴作りの基本やデザインについても学ばれたそうだが、彼が靴作りを始めたのは5歳のこと。小学生の頃、ティッシュペーパーの箱で遊んでいるときに、箱の6面体の形状が雑誌に出ていたクラークスの名品、ワラビーに似ていることを発見。見よう見まねで「靴らしきもの」を作ったこともあるという。もちろん独学だ。大学在学中にすでに自分でオーダー靴を作り始め、暇を見つけては東京に出掛け、いろいろな靴を見て回った。

 

 そしてさらに本格的な靴作り、基本となる木型の作り方などを学ぶために、業界ではよく知られた靴職人、稲村有好さんの扉を叩いた。稲村さんは日本の有名なショップ、ブランドの靴を数多く立ち上げた人で、靴業界ではよく知られた人。稲村さん自身も3代目で、明治時代から家業で靴に係わっていたらしい。しかし残念ながら60歳半ば、稲村さんは急性白血病で急逝してしまう。実は屋号の「時代屋」は稲村さんの工房の名前で、亡くなる直前、稲村さんご本人から指名を受けて、五宝さんが引き継がれた。それが2007年のこと。今でも「時代屋」を名指しで来店される人がいるために、「時代屋」という名前を使っていると五宝さんは語る。ちなみに「時代屋」と共にHPなどで掲げられている「Re:Re:」という名前は、五宝さんが元々やっていたブランド名で、「Re」はメールなので使う「Return」の略。オーダーに来てもらったときに、自分からデザインを提案せずに、まずはお客様の望むものを「Return」する。そしてお客様がずっと履いてくれて、またオーダーするために、あるいは靴をリペアするために「Return」して欲しいという思いから「Re:Re:」と名付けたのだ。

 

 

靴を作るために生まれたような人に出会った

 

 

 普通、オーダー靴というと、頑固な職人肌の人が多く、自分の作る靴はこれだ、とばかり職人的な技術とこだわりを前面に押し出していることが多いが、五宝さんはまったく逆。どんな靴を作りたいか、じっくり話し合いながら、お客様の望む靴を作りたいと思っているし、時には、「もしかしたら望んでいる靴はあそこにあるかも」と他店の靴を紹介することもあるほど。それだけ靴を見ているし、知っているし、靴が好きだから、お客様は履きたい靴の情報なら何でも情報を提供しようと思ってしまうのだ。

 

靴を作るために生まれたような人に出会った

 靴職人の多くが、手縫いなどの技術を謳う人が多いが、五宝さんは「ミシンはとても優れた機械です」と機械縫いの靴ももちろん作るし、お客様の望むものだったら、女性のパンプスだろうと、富士登山用の靴だってデザインする。NIKEなどのスニーカーも大好き。ギャルブランドの靴だって興味がある。靴作りに対して完全にオープンな姿勢で、何でも吸収したいという気概をお持ちだ。「元々やりたかったのは、靴の駆け込み寺なんです」と語る五宝さん。だから靴の修理も気軽に引き受けてしまう。「だって、タダで何十年前の靴がバラせるじゃないですか」と。大学を卒業して靴の修理を主にしていたときには、1日に140足以上の靴を修理したことも。「ノーザンプトンの有名ブランドの底を開けてみたら、シャンクが割り箸だったことも」と五宝さん。自然と作っているファクトリーまでだいたいわかるようになったし、いろいろなブランドの靴を見られるし、情報も入手できる。まだ28歳の若さながら、靴に対するキャリア、知識は相当なもの。それが実践によって培われているところがすごい。こんな靴好きの人に扱われたら、靴だって幸せだろう、と思わずにはいられない。

 

 

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靴を作るために生まれたような人に出会った

歴史を感じる店の外観。看板には五宝さんのブランドである「Re:Re:」の名前も。
靴工房 時代屋
埼玉県川口市芝5-6-13 ☎048-261-9241
営業時間/8:00〜20:00 定休日/日曜
http://www.hack.co.jp/goho/