2008年には全世界で本格的なコレクションの販売を開始、イタリアのPITTI UOMO、パリのTRANOI HOMME、ベルリンのBREAD & BUTTERなどの展示会などにも出展し、世界的に再び認知され、2009年の8月には、世界唯一のフラッグシップショップとなる「THE ARMY GYM‐Nigel Cabourn(アーミージム―ナイジェル・ケーボン」を東京・中目黒にオープンさせた。
「この間、イタリアに行ったら、何人かに“東京のお店、見たよ! すごくいい店だね”と言われたんだ。まだオープンして間もないのに、日本人以外の人が知っているのでびっくりしたよ。オープンのときには私も来たんだけど、有名な日本人写真家の人が“昔から着ていたんだ”と言ってくれて、たくさん服を買ってくれたんだ。すごく感動したよ」
現在、彼のコレクションは2ライン。イギリスを中心に生産される「オーセンティックライン」と日本を中心に生産される「メインライン」。もちろんいずれもナイジェル・ケーボンがすべて手掛け、素材や生産などを考え、ケーボン自身が振り分けているもので、従来のブランド構成とは形式が違う。「テンジンジャケット」のように素材などを変えて、ずっと作り続けているものもあり、いわゆるファッションブランドの服の作り方とは異なる。
2010年春夏のコレクションのテーマはイギリスの植民地として栄えたビルマやインド。このコレクションのベースになったのは、一冊のミリタリーハンドブックで、持ち主はJohn Edgar Wilfrid Cabourn。ケーボンの父で、1942年から45年にかけてビルマ、インドに駐留したイギリス軍人。コロニアルな雰囲気のストライプジャケット、クリケットベスト、グルカショーツなどがラインナップされている。「テンジンジャケット」も素材をリネン100%に変えて作られているのも嬉しい。
「来年の秋冬はまたベンタイルでコートを作っているんだ。バッグも戦車のカバー用の大型ジッパーとハリスツイードを使って作っているよ」とケーボン氏。
今回の来日は来年に向けた打ち合わせで、新しいサンプルを前に嬉しそうに新作を見せてくれる。「こんな靴もあるよ」と、私もよく知るユケテンとのコラボレーションの靴も新作が。ミリタリー&ヴィンテージウエアのコレクターとしても知られ(4,000点も所有という話)、すでに40年ものキャリアがある彼、そのアイデアは留まることを知らない。一点の服をデザインする苦労は、そうとうなもの。それが流行という名の下にどんどん消化されていくいことに私自身大きな危惧を感じる。ましてや好きな服は何年経っても再び着たいし、手に入れたいもの。男の服の基本はそういうものだ。ナイジェル・ケーボンの作る服は、まさしくそういったこだわりとアイデアに満ちた服だし、人懐っこい彼の表情とは裏腹に決して“ひるむ”ことのない頑固な服といえるだろう。