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凍死寸前の寒空の下で確認したボールウォッチの確かな実力

篠田哲生プロフィール

 

 時計の原稿を書く時は、各メーカーから送られてくる「プレスリリース」を参考にすることが多い。ここには価格やサイズ、ムーブメントの詳細が記載されているが、特に重視しているのが数値化されたスペック。3000m防水や80000A/mの耐磁性能というスペックは、時計の個性を左右する重要事項になるからだ。
 しかしこれらの数値化されたスペックが本当に正しいのか? それを知るすべは持っていない。不誠実かもしれないが、だからといって借りてきた時計を、毎回深海に沈めるわけにもいくまい。

 

 そんなある日、数値化されたスペックを実証する機会に恵まれた。俎上に上げるのはボールウォッチ。
 機械式時計は寒すぎると潤滑油が固まり動きにくくなり、結果として精度に悪影響をもたらすことがあるが、ボールウォッチでは特殊な潤滑オイルを使用することで、-40度までの耐低温性能を実現したらしい。それは本当なのだろうか?

 

 その疑念を晴らすべく我々「ボールウォッチの真実を暴く会」が向かったのは、北海道の内陸部にある“日本一寒い町”陸別町。この地で2月5日、6日に行われる『第30回 しばれフェスティバル』のメインイベント「人間耐寒テスト」に参加し、ボールウォッチを寒空の下に放置してしまおうというのが狙いである。

 

 この「しばれフェスティバル」というのは、お笑いステージショーあり、花火あり、出店ありという、寒い場所でやる普通のお祭り(参加人数はのべ1万人!)。そして「人間耐寒テスト」というのは、氷でできたバルーンマンションで一夜を過ごすエクストリームなイベントだという。
 時計以上に寒さに弱い我々は、耐寒用の寝袋や厚手の防寒着、そして大量のお酒を持ちこんで準備万端スタンバイ。会場ではベテランたちがバーベキューセットを持ちこみ、広場で大量のジンギスカンを焼いている。
 しかしこの時すでにマイナス8度。どう考えても外にいるべき気温ではない。我々もバルーンマンションの横に時計をセットし準備は万端だ。寒さに耐えるため、ホットワインを大量摂取するが全く酔わない。こんな時くらいオシャレぶらずにウォッカを用意するべきだった。

 

 21:30から始まった「人間耐寒テスト」は、公式ホームページに“死なない程度に大自然のパワーを満喫していただきます”と書かれているのが納得できるほどの過酷さ。スタート時点では軽口をたたく余裕もあったのだが、マイナス15度を超えてくると、もはや眠ることもできず、焚き火に大量の薪をくべながらひたすら耐える時間が続く。

 

 そして明け方になると気温はマイナス22度を記録。
 釘を打つために持ってきたバナナはカチカチになり、犯罪にも使えそうなレベル。バルーン内のワインは完全に凍結している。呼吸をすれば鼻毛も凍るほどの寒空の下で、それでも屋外に設置したボールウォッチは、見事に時を刻み続けていた! もちろん腕に着けた時計も問題なく動いており、耐低温性能が“はったり”ではないことが証明されたのだった。

 

 嗜好品である高級時計は、デザインやブランドの好き嫌いで判断すべきではないと思う。だからこそ私は数少ない客観的なデータである“数値化されたスペック”を重視するし、その真偽を確認したくなる。
 メーカーを疑っているわけではないが、あくまでもガチンコが基本。八百長は、ダメ、ゼッタイ。なのです。

 

 

凍死寸前の寒空の下で確認したボールウォッチの確かな実力  

こちらがバルーンマンション。巨大な風船に水を掛けて作った氷のドームなので、風はしのげても中は極寒。この中で仮眠をとったが、死を予感させるほどに寒かった。広場の一部の雪が溶けているのは、バーベキューの痕跡。

 

 

凍死寸前の寒空の下で確認したボールウォッチの確かな実力  

我々の命を救った焚き火。あまりの暖かさに絶叫するボールウォッチ清水氏。

 

 

凍死寸前の寒空の下で確認したボールウォッチの確かな実力  

「エンジニア・ハイドロカーボン」とクォーツモデルを雪上に放置しながら実験中。現在マイナス15度。

 

 

凍死寸前の寒空の下で確認したボールウォッチの確かな実力  

朝になり太陽が昇ったので、ようやくマイナス16度。