1月17日から21日までスイス・ジュネーブにて行われた「SIHH(Salon International de la Haute Horlogerie)」が終わり、寒風吹きすさぶスイスから帰国したと思ったら、日本もやっぱり寒かった。しかし過酷な取材ツアーを終え、これから怒涛のように押し寄せる原稿ラッシュを前にして、今はほっと一息の日々を過ごしている。
そこで今回は2011年版のSIHH(とその周辺)に関する私的な○と×をお送りしたい。
第一の“○”は、「ブラックダイアルの追加」。
モデル自体は今まで現在販売しているものだが、ここに「ブラックダイアル」を追加するメーカーが増えた。
やはりコンサバティブな色が売れるからだろうか。通常なら(小手先かい…)とボヤキたくなるのだが、今回は単純なバリエーションの追加にもかかわらず、ぐっと魅力が増している。
寒色系は“収縮色”とも呼ばれ、実際のモノよりも小さく見える傾向がある。今年も大型ケースは少なくむしろジャストサイズを意識しているメーカーが多かったので、ブラックという収縮色がよりデザインを締めて見せたのだろう。
特にジャガー・ルクルト「マスター・クロノグラフ」、モンブラン「ニコラ リューセック クロノグラフ オートマティック」、パネライ「ラジオミール オロローザ42㎜」は、どれもが今年のモデルの方が断然カッコいい。
第二の“○”は、「価格戦略がいっそう明確になった」ということ。
工芸品でありアートであり、そして機械技術への挑戦という意味では、高価格帯モデルがあっても問題はない。大切なのは“高いモノは高く、普通のモノは普通に”というバランス。価格には正当性が必要なのだ。
リアルプライスという点では、ボーム&メルシエの新しくなった「ケープランド」が秀逸。30万円台というライバルの多い価格帯の中で、同社の歴史やブランドステイタスは抜群なだけに、要注目のブランドになりそうだ。
逆に高価格帯ではロジェ・デュブイが今年もやってくれた。昨年の「イージーダイバー」に引き続いて、今年から始まった新コレクション「モネガスク」にも、100万円台前半のモデルが登場した。昨年同様ゴールドローターを使用しないCal.RD821を搭載することで価格を抑えているが、だからと言って時計の魅力には影響を与えていない。
ちなみにロジェ・デュブイにおいて100万円台前半というレンジは最安値となるが、このレンジが売れるのは日本市場だけ。他国はトゥールビヨンがメインなのだそう。中間層が厚い日本市場らしい傾向であり、ロジェ・デュブイのファンが広範囲に広がっていることの証明と言えるだろう。
ちなみに×は、やっぱり治安の悪さ。
我々はジュネーブ(コルナバン)駅の近くのホテルに宿泊していたのだが、駅から徒歩3分という好立地ながらも、周囲にはいかがわしい店が増えていて、なんとも不穏な雰囲気。ホテル横の商店では店主と客とのトラブルから、ナイフ片手の喧嘩まで始まる始末…。
他の取材チームが駅前でスリ被害にあったという情報もあり、相変わらずヨーロッパは荒れているなぁと実感したSIHHの取材となった。
ジャガー・ルクルト「マスター・クロノグラフ」は、昨年発売されたモデルのダイアル違い。昨年も高評価だったが、今年はそれ以上に惹きつけるオーラがある。¥976,500 |
ボーム&メルシエ「ケープランド アート クロノ」はETA社製クロノグラフムーブメントを搭載しながら、価格は¥367,500。ダイアルには6つのバリエーションがある。 |
ロジェ・デュブイの新シリーズ「モガネスク」は、モナコをイメージしたラグジュアリー感がポイント。SSモデルなら100万円前半に収まる。クロノメーター&ジュネーブシールを取得。 |