3月23日からスイス北部の都市バーゼルにて開催された世界最大の時計と宝飾の見本市「バーゼルワールド」。今年は時計と宝飾を合わせて1892もの出展社が参加し、その国籍は45カ国にも及んだ。
この世界的なイベントを終えたことですし、今年も個人的○(マル)と×(バツ)を紹介していきましょう。
まずは○ですが、「ケース素材に変更による価格の低下」を挙げましょう。"高級"時計メーカーは貴金属ケースを多用します。この場合時計の魅力は別として、コスト分は高価になってしまうので、必然的に価格も上がります。それゆえ時計の魅力と価格が釣り合わないモデルが少なくなかったのも事実。もちろん手首に感じるずっしりとした重みも貴金属ケースの魅力でしょうけど、デザインや機構に惚れている場合、正直ケース素材云々はおまけですから、「"高級"メーカーだからケースも高価に」という方程式から逃れつつあるのは良い傾向でしょう。
時計の価格という点では「カジュアル系ウォッチに力作が増えている」というのも見逃せない○ポイント。奇しくもカシオとシチズンが今回のバーゼルワールドにて、GPSを利用する時刻調整機能付きの時計を発表しました。カシオはスマートフォンを利用し、シチズンは衛星から発信されるGMT時刻を受信し、時計側で時差調整するという仕組みのため、まだ完ぺきなシステムとは言えませんが、電波時計に続く新たなハイテクウォッチの萌芽を感じることができました。
新作時計で気になったのはタグ・ホイヤーのコンセプトウォッチ「マイクロタイマー フライング1000 コンセプトクロノグラフ」。この時計は世界で初めて1/1000秒計測を可能にした機械式クロノグラフです。
名門時計メーカーの多くが、自社の歴史を振り返って原点回帰を目指す昨今ですが、タグ・ホイヤーの場合はレースタイミングという自社の歴史をベースにしつつも、次世代の時計を目指している。その姿勢には感心しきりです。
しかし全てが良いことではありません。今年の×(バツ)として、「バーゼルワールドの地位低下」を挙げましょう。そもそもスイスでは一つの時計フェアしか行われていなかったのですが、より高級感のある雰囲気を求めてカルティエらが脱退し、ジュネーブで行われるSIHHが発足しました。大きなホールの中に展示ブースを建て込むというザワザワ雰囲気が気に入らなかったのでしょう。
そして現在のバーゼルワールドでも某ラグジュアリーブランドは、ライン川に船を浮かべて独自の展示会場にしていますし、巨大カジュアルウォッチグループは会場の横にある大きな本社ビルでレセプションを行いました。
バーゼルワールドは巨大化し過ぎてしまい、コストがかかり過ぎる割に、発表の場としての旨みが薄くなっているというのは、メーカーだけでなく時計師からも聞かれていましたがが、ここにきて独自開催の動きが活発化しているようです。
また、新作がちょっと少なかったかな…という印象も受けました。デザインや色のバリエーションの追加によって、なんとか頭数は揃えていますが、今までに比べるとトーンダウンを否めません。
そのため、こんなご時世でも新作ラッシュだったタグ・ホイヤー、ブライトリング、ベル&ロスの勢いは本物なのだなと、逆に印象が深まりました。
シチズンのコンセプトウォッチ「Eco-Drive SATELLITE WAVE」。製品化も決定済み! |
タグ・ホイヤー「マイクロタイマー フライング1000 コンセプトクロノグラフ」。ざっくり説明すると、時計駆動用とクロノグラフ用で二種類の時計機構が組み込まれています。 |