仕事でヨーロッパに行くと、どうしても時間に追われているように感じます。取材スケジュールがタイトだからということも要因なのでしょうが、何よりも心理的プレッシャーになるのが“お店が早く閉まる”ということ。
時計メーカーのスタッフは、ほとんどが16時ごろにイソイソと退社するのですが、これも17時閉店のスーパーに間に合うようにしているんじゃないかと、私は見ています。そして大都市ジュネーブでも田舎のラ・ショー・ド・フォンも同様に、夕方を過ぎると街から人が消えてしまうのです。
ところが先日出張で出向いたニュージーランド・オークランドで感じたのは、キウィ(ニュージランド人は自身をこう呼ぶ)たちは時間の使い方が上手だということ。
街中を取材していると、仕事が終わる18時ごろから徐々に人が街に増え、その多くがジョギングやタッチラグビーなどのスポーツを楽しんでいるのです。平日だというの、ファミリー総出という家族も少なくありません。とにかく彼らは全く時間に追われている様子がない。何故なのでしょうか?
オークランドの人口は市内が41万人で都市域が120万人。ニュージーランド最大の都市ですが、海も山も近くて街がコンパクトなので、職住近接が可能なのだとか。オフィスと自宅が近ければ、家族で公園に出掛けるにも時間のロスが少ない。時間的余裕があるから、仕事帰りにスポーツやレジャーを楽しめるのです。
しかもオークランドの場合、ブティックこそ早く閉店するものの、スーパーならほとんどが深夜営業。つまり会社帰りにジョギングして、家に帰って着替えてからでも、十分夕食の買い出しに出かける余裕があるのです。
スイスも小国なので“職住近接”ですが、夕飯の買い物ができなくなってしまうので、取材が長引くとピリピリムードになるのですが、キウィたちにはそんな雰囲気は皆無。時間に余裕があるからこそ、人は穏やかになるのでしょう。
その好例が、取材で訪れたワイナリーのオーナー。本職はエアラインのパイロットで、「今日もロンドンへのフライトがあるんだよ~」といっている割には、夕方までののんびりと葡萄の手入れをしている。聞くとワイナリーから空港まで1時間もかからないのだとか。だからこそ、ストレスフルなパイロットとのんびりしたワイナリーオーナーという正反対のダブルワークが可能なのです。
オークランドにはゆっくりとした時間が、しかもライフスタイルを制限することなく流れていました。セカセカと時間を気にして行動しなくてもよいので、私も仕事中にほとんど時計を見る機会がありませんでした。
もしかするとニュージーランドは、時計が不要な国かもしれません。大都市オークランドの“時間感覚”は、ちょっとしたカルチャーショックでした。
オークランドから車で約60分。マタカナという街のワイナリーでの一コマ。大都市近郊とは思えないロケーションだ。
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樹齢2000年という巨木カウリツリー。ゆったりとした時間の流れは、こんなところからも感じることができる。 |
オークランド市内の公園「ワンツリーヒル」には、なぜか羊が。草をはむ様子に誰もが癒される。 |