現在放映中のダイソンのCMを見たことがありますか?
同社のCEOであるジェームズ・ダイソンが登場し、「はじめて取引をした日本企業のモノ作りへの姿勢に感銘を受け、以来エンジニアとして試行錯誤を繰り返しながら、新しい技術を開発し続けている」ということを語っています。
実は私も5年ほど前に、ロンドンの彼の自宅や工場にてインタビューをする機会に恵まれたのですが、CMでも語っている内容以外にも興味深いエピソードを教えてくれました。
彼曰く「日本メーカーと取引した際に“指紋が付いている”とクレームが入りました。しかしどこを見ても見つからない。かなり念入りに探して、ようやくその問題個所が分かった。初めはこの程度でうるさいなあ…とも思ったが、彼らの要求に答えることで我が社の品質レベルはかなりアップすることができた。今世界中で品質が評価されるのは、あの時の経験があったからなんです」。ダイソン氏は日本人の品質へのこだわりに感謝しているとも述べていました。
しかしながら、この品質至上主義がマイナスに働いてしまう場合もあります。
日本のお家芸であるはずの家電業界が苦労している理由のひとつに、日本人が求める品質に合わせると世界の基準からはみ出してしまう「ガラパゴス化」が挙げられています。“まあまあの品質で価格は安く”が世界の主流ですから、高品質で勝負する日本メーカーの苦労が偲ばれます。
では日本人も求める品質レベルを世界基準に下げるべきなのでしょうか?
それは明らかにNO。むしろ日本人の品質信仰が世界中の品質をレベルアップさせているのです。
時計の仕事をしていても「日本人は品質にうるさい」という話をよく聞きます。
新作時計が入荷される秋は、時計業界にとって最も忙しい時期。プロモーション活動も活発化し、毎週のようにレセプションパーティを開催し、スイス本国からも経営陣が来日します。
こうなると私もインタビュー取材を多くこなすことになるのですが、彼らの発言の中で多く聞かれるのが、褒め言葉としての「日本市場の特異性」。彼らいわく「品質へのこだわりが厳しい」「職人技に対するリスペクトが深い」「希少性という価値を知っている」…。つまりは目の肥えたユーザーだというのです。
確かに日本人の“品質に対する要求の高さ”は群を抜いているようで、某メーカーでは入荷された時計を検品した際に、約半数を販売不可として送り返すとか。
このネタを教えてくれた担当者いわく「だから海外では買わないほうがいいですよ。日本のレベルで検品していないので、ハズレを掴まされることもありますから」とのこと(本当か?)。
もちろん送り返される時計(そして海外で売られている時計)が不良品ということではなく、日本のストイックなまでの品質基準に合わないだけ。しかしながら、某時計輸入代理店は1980年代から何度もスイスメーカーの品質にクレームを入れ続け、ようやく紫外線に当たっても文字盤が退色しないUVカットの風防ガラスを採用してくれたそうですから、日本人の品質信仰を聞き入れれば、必ず時計は良くなるのです。
ガラパゴス上等。品質至上主義バンザイ。この程度で十分でしょと考えたら、家電も時計も進歩しません。
口うるさいユーザーがあって、初めて品質は向上する。日本市場はそんな“汚れ役”を引き受けているのです。
のんびりとした山村で作られるスイスの時計たち。多少ゆるいのはしょうがない!?
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今や、日本も席巻しているダイソン。取材した本社工場はこんな感じで近代的。 |