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クロックと共に考えるインテリアとしての時計

篠田哲生プロフィール

 

 自宅の転居から2年が経ち、ソファとソファテーブルを買い替えた。片方はインテリアショップのオリジナルで、もう一つは著名デザイナーの傑作。全ての生活の基盤となる自宅が、“自分の好きなモノ”に囲まれるのは嬉しいことです。

 

 しかしながらいまだに“好きなモノ”に出会えないジャンルがあります。それが室内用の時計(クロック)。ジョージ・ネルソンを筆頭に、傑作壁掛け時計は多数発売されていますが、琴線に触れるものにはまだ出会えず、結局ブラウンの「アラームクロック」を複数購入して、家中に置いて生活しています。

 

 腕時計のルーツを辿ると、柱時計や掛け時計、置時計といったクロックに辿り着きます。これらの時計はゼンマイや錘が下がる力(=動力)を、振り子を利用して調速する仕組みで、世界初の振り子時計はオランダの天才物理学者クリスチャン・ホイヘンスが1656年(1973年の説もある)に製作したそうです。しかし時計技術が進化し、小型化が進むと共にクロック文化も衰退。現在では“おじいさんの時計”と呼ばれ、前時代の象徴になってしまいました。

 

 そのためインテリアアイテムとして楽しめるクロックも減少し、選択肢が狭まっているのが現状です。

 

 クロックといえばジャガー・ルクルト「アトモス」を思い浮かべる人も多いでしょう。室温の微妙な変化を利用してゼンマイを巻きあげる半永久機関クロックは、ジャガー・ルクルトの技術の集大成のひとつです。

 

 しかし今回ピックアップしたいのは、ドイツ・ミュンヘンにあるクロック専門メーカー「エルウィン・サトラー」。1958年に設立されたため、歴史自体はそれほど長くはないものの、歯車まで全て自社製造するマニュファクチュール体制を築いており、その品質の高さとデザインセンスの良さには定評があります。

 

 エルウィン・サトラーのクロックは、高品質&少量生産のためどうしても高価になりますが、これが意外と売れているようです。特に「クラシカ60」は、ケース本体の高さが約60cmとクロックとしては小ぶりサイズのため、設置場所を選びません。事実、大豪邸ではなくマンション住人の購入者が多いと聞くと、俄然リアリティが出てきます。

 

 さらに錘を軽くしてトルクを軽減させて時計が発する“チクタク音”を小さくさせました。これは睡眠を邪魔しないための工夫で、彼らは“ベッドルーム・レギュレーター”と呼んでいます。

 

 機械式時計は自分の分身として見せびらかすことができる“アクセサリー”ですが、自宅に飾るクロックはインテリアの一部ですから、よほど親しい間柄で無ければ時計自慢をすることはできません。

 

 つまりクロックとは、高級家具と同じく自己満足の世界に浸るためのアイテムということ。

 

 パテック フィリップなどの雲上ブランドを“上がり時計”とする風潮がありますが、実はクロックに凝ることこそが、時計愛好家が最後に辿り着く究極の時計道楽なのかもしれません。

 

 私はそこまでの甲斐性がないので、「ブラウン」と「ブラン」で我慢。ブランというのは、高精度腹時計を内蔵し、8時半からキュウキュウと鳴き出す愛犬のことで、9時にピークを迎えるスヌーズ機能付き。どんなに寝る時間が遅くても確実な起床を約束する、我が家の“ベッドルーム・レギュレーター”です。

 

 

クロックと共に考えるインテリアとしての時計  

ドイツの機能美デザインに溢れたブラウンの傑作「アラームクロック」は、雑貨店などで発売中。価格は3000円前後。

 

 

クロックと共に考えるインテリアとしての時計  

2010年の新作「アトモス566 By マーク・ニューソン」は、バカラクリスタルを使用し、価格は1055万2500円。

 

 

クロックと共に考えるインテリアとしての時計  

エルウィン・サトラー「クラシカ60」。ダイアルはエナメル製でブルースチール針を使用。53万5500円。

 

 

クロックと共に考えるインテリアとしての時計  

腹時計だけでなく、食事後45分で必ず眠くなるという快眠時計も発達。規則正しい生活を約束する生きたクロック。