ほとんどのスポーツでは正確な計時が必要なのだから、スポーツイベントと時計メーカーがコラボレーションするのは、珍しい事ではありません。競技者にとっては公正な試合を行えるし、時計メーカーにとっては大きな宣伝となる。互いのメリットがあるからこそ、“オフィシャルタイムキーパー”を望む時計メーカーは少なくありません。
しかしオフィシャルタイムキーパーという看板は、あくまでもブランド全体のイメージアップが目的。伝え聞くところによると、メーカーごとに異なるシステムを持ち込まれると混乱してしまうので、計時システムは主催者側が用意し、メーカーは名前だけを貸しているという場合もあるようです。
時計自体の知名度を上げ、魅力を広範囲に伝えるなら、選手に直接使用してもらう『アンバサダー』方式がいいでしょう。これなら時計自体がフォーカスされるし、その選手が活躍すれば様々な媒体にも取り上げられる可能性が増えます。
この手法を初めて用いたのはロレックス。1927年10月7日にドーバー海峡を泳いで横断したメルセデス・グライツさんは、腕にオイスタークッションと呼ばれる防水時計を着けていた。彼女は無事に泳ぎきると時計を振って、本当に動いていることをアピール。ロレックスの防水ケースは、こうして知名度を上げました。
現在この“着用パフォーマンス”によるプロモーション活動を積極的に行っているのは、リシャール・ミルです。同社の「軽量で頑丈、衝撃にも強いトゥールビヨン」をアピールするために、当時まだ売出し中だった若手ドライバー、フェリペ・マッサに時計を着けさせたままF1レースに参加させたのです。
時には大クラッシュも演じましたが、それでも時計は動いており、宣伝文句が本当であったことを実証しました。フェリペ・マッサはその後も順調にキャリアアップし、フェラーリのドライバーとなった現在は、リシャール・ミル「RM011」を着けたままレースをしています。
F1ドライバーには時計のアンバサダーが多いのですが、さすがレース中に着ける人は皆無。そのため、彼の腕に収まる巨大な時計はかなり目立っています。
さらに今年の全仏オープンテニスでは、世界ランキング2位のラファエル・ナダルが、何と5000万円以上するトゥールビヨンモデル「RM027」を着けて試合に臨んでいます。このモデルはカーボンケースやLITAL合金という軽量素材によって、ストラップを含めた時計重量が20g以下という驚きのモデル。
全仏を4度制したナダルですから、決勝までは勝ち進むはず。となれば時計に詳しくない視聴者だって「なんで時計しているの?」と思うでしょう。まさにリシャール・ミルの思うつぼです。
残念ながらロレックスのアンバサダーを務めるロジャー・フェデラーは準決勝で敗退し、リシャール・ミルvs.ロレックスの代理戦争は実現しませんでした。しかしこれだけ話題をふりまけば、十分元はとれたでしょうね。
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